防じん機能付き防毒マスクについて

ここでは、防毒マスクに取り付けることができる、ろ過材(フィルター)の話をします。

なぜ、防毒マスクに防じんマスクの機能を持たせる必要があるか。
有害なガスや蒸気の雰囲気下で、かつ有害な粒子状物質も飛散している環境の場合、その両方に対応できる呼吸用保護具が必要になります。

そのことについては、通達(防毒マスクの選択、使用等について)が出ています。
その中の一部です。

ガス又は蒸気状の有害物質が粉じん等と混在している作業環境中では、粉じん等を捕集する防じん機能を有する防毒マスクを選択すること。その際、次の事項について留意すること。(以下略)

では、その防じんマスクはどのようなレベルのものを用意しなければならないか。
これまた通達 (防じんマスクの選択、使用等について) があります。
抜粋すると、、、

(2) 労働安全衛生規則(以下「安衛則」)第592条の5、鉛中毒予防規則(以下「鉛則」)第58条、特定化学物質等障害予防規則(現在では、「等」が取れてます。以下「特化則」)第43条、電離放射線障害防止規則(以下「電離則」)第38条及び粉じん障害防止規則(以下「粉じん則」)第27条のほか労働安全衛生法令に定める呼吸用保護具のうち防じんマスクについては、粉じん等の種類及び作業内容に応じ、別紙の表に示す防じんマスクの規格第1条第3項に定める性能を有するものであること。

別紙の表

粉じん等の種類及び作業内容 防じんマスクの性能の区分
〇安衛則第592条の5
作業廃棄物の焼却施設に係る作業で、ダイオキシン類の粉じんのばく露のおそれのある作業において使用するマスク
 
・オイルミスト等が混在しない場合 RS3、RL3
・オイルミスト等が混在する場合 RL3
〇電離則第38条
放射性物質がこぼれたとき等による汚染のおそれがある区域内の作業又は緊急作業において使用する防じんマスク
 
・オイルミスト等が混在しない場合 RS3、RL3
・オイルミスト等が混在する場合 RL3
〇鉛則第58条、特化則第43条及び粉じん則第27条金属のヒューム(溶接ヒュームを含む)を発散する場所における作業において使用する防じんマスク  
・オイルミスト等が混在しない場合 RS2,RS3,DS2,DS3
RL2,RL3,DL2,DL3
・オイルミスト等が混在する場合 RL2,RL3,DL2,DL3
〇鉛則第58条及び特化則第43条  
管理濃度が0.1㎎/m₃以下の物質の粉じんを飛散する場所における作業において使用する防じんマスク  
・オイルミスト等が混在しない場合 RS2,RS3,DS2,DS3
RL2,RL3,DL2,DL3
・オイルミスト等が混在する場合 RL2,RL3,DL2,DL3
〇上記以外の粉じん作業  
・オイルミスト等が混在しない場合 RS1,RS2,RS3,DS1,DS2,DS3
RL1,RL2,RL3,DL1,DL2,DL3
・オイルミスト等が混在する場合 RL1,RL2,RL3,DL1,DL2,DL3

上の表は、法令から転記しましたが、シゲマツさんのHPで出ているものの方が見やすいです。
数字はフィルターの捕集効率を表しており、1~3の3区分で3が最も細かい粉じんも捕集できます。ただし、吸気抵抗も大きくなります。つまり、隙間があるとそこから吸入しやすい。
LとSは試験粒子の性状。Lは液体粒子、Sは固体粒子。
RとDはマスクの形状。Rは取替式、Dは使い捨て式。

有害性の高い粒子ほど、数字が大きく、取替式になります。

この表には、RS1~3とありますが、取替式防じんマスク及び防毒マスクに取り付けられるろ過材はすべてRL1~3です。
逆に使い捨て式防じんマスクは、DS1~2までで、DS3やDL1~3はありません。あくまで、規格だけの表で、製品があるわけではありません。
オイルミストのある環境では、使い捨て式マスクを使っていると捕集効率が落ちてきません。つまり、小さい粉じんはおろか、大きい粉じんもマスクを通過してきてしまいます。まったく使えないわけではありませんが、こまめに交換するようにしましょう。

塗装作業の場合はどうなるか。
特にエチルベンゼンなどが塗料に含んでいる場合です。
先ほどの防毒マスクの通達では、

(10) 防じんマスクの使用が義務付けられている業務であって防毒マスクの使用が必要な場合には、防じん機能を有する防毒マスクを使用させること。
 また、吹付け塗装作業等のように、防じんマスクの使用の義務付けがない業務であっても、有機溶剤の蒸気と塗料の粒子等の粉じんとが混在している場合については、同様に、防じん機能を有する防毒マスクを使用させること。

となってます。
〇有機溶剤にエチルベンゼンが含まれている場合
エチルベンゼンは塗料ミスト又は蒸気として気中に発散します。塗料の樹脂粉じんにくっついていますので、上の表の「上記以外の粉じん作業」に該当します。
〇クロム酸鉛を含む塗料の場合
クロム酸が6価クロムなら対策が必要です。クロム酸の管理濃度は0.05㎎/m₃なので、捕集効率の区分1のろ過材は使えません。

こういったマスクの情報は、インターネットを探せば出てきますが、最近のメーカーさんのカタログは詳しく、見やすく作られています。
取り寄せて、手元に置いておくとよいです。

防じんマスクについて

どのようなものが必要かは保護具カタログなどに書いてありますが、カタログに書いていない、または書いてあっても分かりにくいことを書きます。
(防毒マスク、防じん機能付き防毒マスクについては別記事にする予定です)

吸入による障害が考えられる鉱物性粉じんは、肺に入らないようにすればよいのですが、消化器に入って消化され、身体に蓄積し、障害がでる特定化学物質は 、吸引しないことはもちろんですが、口に入らないことも考慮しないといけません。

労働安全衛生総合研究所HPより

こまめにフィットチェックするのは当然ですが、会話をする場合、マスクを着用しているとなかなか聞き取り難いです。
ついついマスクを無造作にずらしてしまいますが、マスクをずらすと、徐々にマスクの密着性が悪くなることを留意しましょう。また、あごなどに有害物質が付着していた場合、マスクの内側に有害物質が付着して口に入る可能性があります。

マスクをずらさずに会話できるように、伝声器があるとよいです。

シゲマツさんの防じんマスク (防じんマスク DR80のリンク

私が使っているマスクの紹介
3MのQLシリーズです

3M取替え式防じんマスク(防毒マスク兼面体) 6500QL/2091-RL3L

本体とろ過材、それとろ過材のカバーです。

付けるとこうなります。向かって右側はカバーを付けていない状態です。

カバーを付けるとこうなります。
カバーはろ過材についた有害物質が手や衣類に触れることにより、付着または有害物の脱落を防止するためです。
普通の粉じん作業なら、カバーは必要ないでしょう。ですが、有害物、特に有害性の高いものにはろ過材がむき出しでないほうが、私は安心です。

また、このQLシリーズはクイックラッチ(youtube動画)ができます。
伝声器があればいいのですが、このクイックラッチを使えば片手でマスクを開け、元通り着用することができるので、ゆるみが少ないです。

あと、鼻のところがスリムに作られているので、眼鏡の鼻当てにあたりません。

でも、3Mさんのはお高いのが玉に瑕・・・

密閉装置の排気について(鉛関係)

先の粉じんや有機溶剤等と違います。
これらは局所排気装置等に該当するならば屋外に排気しなければいけない。と云っています。
鉛中毒予防規則(以下、鉛則)は局所排気装置等のほかに、ろ過集じん方式の集じん装置(ろ布式集じん装置)についても規制しています。

「局所排気装置についている集じん機となにが違うの?
鉛則では、局所排気装置についている集じん機を「ろ布式除じん装置」、鉛の生産設備の一環として備えられている集じん機を「ろ布式集じん装置」と区別しています。(昭和42年3月31日 基発第442号 当時は第21条だったので、21条関係に書いてあります)

設備の一環?
粉じんで書いた、密閉装置内を負圧にするためにある設備が該当します。
他の例として、空気を配管に流して、その力を利用して粒子状物質を搬送するルーツブロア、ターボブロアも該当します。

このように、貯蔵タンクに入っている鉛の粉をファンの吸引力を用いて開口部から空気を吸い込み、その空気と貯蔵タンクから落ちてきた鉛の粉もろ共計量ホッパーに搬送し、計量ホッパー→集じん機→ファン→排気口へと空気は出てきます。
目的は「搬送」になるのと、鉛則で除じん装置の設置が義務付けられている作業ではないので、局所排気装置に該当しません。( 昭和42年3月31日 基発第442号)
ですが、鉛則ではこの排気口を屋外に設けることを規定しています。

(ろ過集じん方式の集じん装置)
第二十二条  事業者は、粉状の鉛等又は焼結鉱等に係るろ過集じん方式の集じん装置(ろ過除じん方式の除じん装置を含む。)については、次の措置を講じなければならない。ただし、作業場から隔離された場所で労働者が常時立ち入る必要がないところに設けるものについては、この限りでない。
  一  ろ材に覆(おお)いを設けること。
  二  排気口は、屋外に設けること。
  三  ろ材に付着した粉状の鉛等又は焼結鉱等を覆(おお)いをしたまま払い落とすための設備を設けること。

屋内排気でもよい理由を探すより、屋外に排気することを考えるようにしましょう。

密閉装置の排気について(有機溶剤、特化物関係)

前に粉じん関係について書きましたが、基本的な考え方は同じです。
ですが、蒸気やガスになる有害物については注意が必要です。

有機溶剤の場合

法的に、密閉装置とは?といった説明がありません。
参考までに、「有機溶剤作業主任者テキスト」には、「密閉構造というのは、多少内部が加圧状態になっても有機溶剤上記が外に漏れ出さない構造をいう。」とあります。このような構造が望まれます。

密閉した状態ならばよいですが、密閉装置を開放する場合は、送気マスク又は防毒マスクの着用が義務になります(有機則第33条第1項第7号)。
ですが、よくある洗浄溶剤などが入っているちょっとした容器にある蓋を開ける場合は、密閉装置を開放するというよりも、その後何をするかによって、局所排気装置を設置したほうが良い場合があるので注意してください。

ある自動洗浄機能を持つ印刷機で、囲いがされて密閉状態と判断される装置があるとします。ですが、床付近に隙間があり有機溶剤蒸気が漏洩してくるケースがあります。

また、密閉装置に排気装置がある場合、この排気装置は局所排気装置に該当しないので屋内排気でも法的に問題ないことになります。
本来、その密閉設備を設置する際には、所轄監督署に設置届を出さないといけません。その設置届には、密閉設備の場合、密閉の方式及び当該設備の主要部分の構造の概要を記載しないといけません。
その内容を、所轄監督署が精査してくれていればいいのですが、有機溶剤蒸気がだだもれの設備も見受けられます。

法律で問題なくても、労働衛生上、きちんと屋外に排気することが望まれます。
あからさまに有機溶剤蒸気が排気されている場合、
「密閉設備だから、負圧に保つために排気しているものは局所排気装置に該当しないので、屋内排気でも問題ない」と主張しても、有機則第13条の2に基づき特例許可を受けなさい。と云われる可能性があります。

第十三条の二 事業者は、第五条の規定にかかわらず、次条第一項の発散防止抑制措置(有機溶剤の蒸気の発散を防止し、又は抑制する設備又は装置を設置することその他の措置をいう。以下この条及び次条において同じ。)に係る許可を受けるために同項に規定する有機溶剤の濃度の測定を行うときは、次の措置を講じた上で、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備、局所排気装置及びプッシュプル型換気装置を設けないことができる。

この法律は「所定の性能を有する発散防止抑制装置を付ければ密閉装置、局所排気装置などを付けなくていいですよ。だけど、監督署長の許可をもらってね。」というもの。
所定の性能は、屋内排気しても安全であることが求められています。活性炭カートリッジなどで、排気空気に含まれている有機溶剤蒸気を除去するうえに、活性炭フィルターが飽和して、有機溶剤蒸気が室内に出てきたら、警報などで知らせる装置がなければいけないとしています。
めんどくさいです。そういった装置をメーカーから購入するのが近道です。

特化則の場合

有機溶剤とほぼ同じです。
同じような法律(特化則第6条の2)があります。

第六条の二 事業者は、第四条第三項及び第五条第一項の規定にかかわらず、次条第一項の発散防止抑制 措置(第二類物質のガス、蒸気又は粉じんの発散を防止し、又は抑制する設備又は装置を設置することその他の措置をいう。以下この条及び次条において同じ。)に係る許可を受けるために同項に規定する第二類物質のガス、蒸気又は粉じんの濃度の測定を行うときは、次の措置を講じた上で、第二類物質のガス、蒸気又は粉じんの発散源を密閉する設備、局所排気装置及びプッシュプル型換気装置を設けないことができる。

コバルトを含有する合金の研磨を行う湿式研磨装置は、オイルミストが発生するので、密閉設備になっているケースが多いと思います。その密閉装置にはオイルミストコレクターで加工時に発生するオイルミストを捕集し、排気はそのまま屋内に出しています。
密閉設備なら内部を負圧に保つ装置として捉えられると思いますが、研磨部が開放されている装置については、上の特化則第6条の2の許可が必要になるおそれがありますので、注意してください。

密閉装置の排気について(粉じん関係)

粉じん障害防止規則には、特定粉じん発生源には、次の措置を講じなければならないとしています。(粉じん則第4条)

  • 湿潤な状態に保つための設備を設置すること
  • 密閉する設備を設置すること
  • 局所排気装置を設置すること
  • プッシュプル型換気装置を設置すること

特定粉じん発生源とは
粉じん作業に係る粉じん発生源のうち、作業工程、作業の態様、粉じん発生の態様等からみて一定の発生源対策を講ずる必要があり、かつ、有効な発生源対策が可能であるものであり、具体的には屋内又は坑内において固定した機械又は設備を使用して行う粉じん作業に係る発生源が原則といて列挙されたもの。
(昭和54年7月26日 基発第382号)

このコラムは、2番目の「密閉する設備」について書きます。

ここで云う密閉設備は、
解釈では、
「粉じんが作業場内に飛散しないようにその発生源を密閉することができる設備」をいいます。
望まれることとして、「粉じんの漏れをなくすため、内部の空気を吸引して負圧にしておくこと」としています。
これはつまり、密閉していても漏れることを想定しています。発生源を囲って、開口部をなくせば『密閉設備』と称することができます。
(昭和54年7月26日 基発第382号)
(平成10年3月25日 基発第128号)

グローブボックス型の囲いがあり、サイトガラスもあり、手を入れるところもグローブの裾で密閉されていれば、密閉設備になります。
しかしグローブが破れて、手を入れるところに隙間が空いていれば密閉設備に該当しません。
仮にそのグローブボックス内でブラストするとすると、排気装置を付けてグローブボックス内を吸引し、手を入れるところの吸い込み気流が1.0m/s必要になります。

「粉じんの漏れをなくすため、内部の空気を吸引して負圧にしておくこと」と先に書きましたが、この内部を吸引して負圧に保つ設備は局所排気装置などに該当しません。
例を出しますと、上の写真↑のショットブラストですが、箱の後ろにサイクロンのようなものがありますが、これはボックス内にたまったメディアを再利用するために吸い出す目的です。その結果ボックス内は負圧になります。
局所排気装置に該当しないので、集塵機の排気口を屋外に設ける必要がなくなります。(粉じん則第11条第1項第4号)
このことは、厚労省の労働局に問い合わせて確認しました。
ただし、労働衛生的には屋外に排気したほうが望ましいです。

グローブボックスの手袋が破れてそのままの事業場もありますが、設備届出の要件と合わなくなるので、新しい手袋にしてください。
新しい手袋にしないならば、手を入れるところの吸引風速を1.0m/s(ショットブラストの場合)出さないといけないので、そちらのほうが設備投資にお金かかりますよ。

設備届出
労働安全衛生法第88条
労働安全衛生規則別表第7(ショットブラストの届け出は23号です)

別のケースで、長尺の被研磨物を、自動送りでブラストする設備があるとします。長尺のものが入る開口部と出る開口部があると、これは密閉設備に該当しません。
この両開口部の吸引気流が1.0m/sあるように、集じん機を設置する必要があります。この集じん機の排気は屋外に設置しなければいけません。

お持ちの設備を再確認しましょう。