吸収缶の繰り返し使用

衛生管理者、有機溶剤作業主任者等、防毒マスクの知識がある方向けの記事です。使用限度を保証するものではありませんので、データを過信せず、早期の交換に心がけてください。

気中有機溶剤濃度が低い作業場で使用している防毒マスクは、繰り返し使用しているのが現状だと思います。
作業場の気中濃度が数ppmで極めて低いという背景もあると思いますが、メーカーでは、破過曲線図の右端の使用時間を超えての使用を推奨していません。
作業強度による呼吸数の増減や瞬間的に高濃度に晒されている可能性、温度、湿度、その他反応ガスなどの様々な要因からです。

では、1週間前に使って、密閉容器などで適切に保管した防毒マスクは使ってよいかどうか。

マスクメーカーである興研さんが発行している「Safety NEWS(2017.7 №702)」にあった記事を紹介します。
(残念ながら、メーカーhpにPDFで保管されていませんでした。お申し出頂きましたら、記事は消去いたします。)

吸収缶に有機溶剤蒸気が吸着するとどのようになるか。

左の図のように、吸収缶の上流(入り口)側に吸着します。これが呼吸によって吸着した有機溶剤の分子が下流側の粒に移っていきます。
この粒にどれだけの時間保持できるかは有機溶剤の種類によって異なります。メタノールとかは極めて早いです。
使わなくても置いておくだけで、右の図のように有機溶剤の分子は拡散していきます。

このグラフは、試験濃度300ppm、使用限度とする破過基準濃度5ppmのガスによるデータです。
100分まで使える吸収缶で、50分使用した後、1日、5日、10日、15日保管した場合の抜けてしまう濃度をプロットしています。
1日、5日保管ならば、同一吸収缶を繰り返し使用しても、100分使用しても破過基準濃度に達していませんので、繰り返し使用に耐えうると判断できます。
一方、10日のものは再使用開始後20時間で、15日のものは既に 破過基準濃度 に達していますので、再使用はできません。

以上より、吸収缶の袋を開けてしまったら、未使用であっても5日に処分するよう心がけてください。

Safety NEWS(2017.7 №702)の一部

労働基準法施行規則第18条第9号の有害な業務

労働時間の延長が2時間を超えてはならない業務として次の業務が挙げられています。

1.多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
2.多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
3.ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
4.土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
5.異常気圧下における業務
6.削岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務
7.重量物の取扱い等重激な業務
8.ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
9.鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準じる有害物の粉じん、蒸気又はガスを発散する場所における業務
10.前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務

この労働時間の延長のほか、衛生管理者のうち少なくとも1人を専任としなければならない、または衛生工学衛生管理者から衛生管理者を選任しなければいけない業務にも該当します。
この業務のうち、9号について詳しく説明します。

9号の具体的な解釈として、
鉛中毒予防規則第1条第5号の鉛業務 四アルキル鉛も含む
クロムメッキに係る業務
有機溶剤中毒予防規則に係る業務
地下駐車場内における業務   があります。

労基則18条解説(労働基準法(上)労務行政研究所発行)
(労働基準法(上)労務行政研究所発行)

この通達(昭和43年7月24日 基発第472号、昭和46年3月18日 基発第223号)が見当たらないことと、この書籍が絶版なので、これ以上のことはわかりません。
この解釈では、特定化学物質については特に述べられていませんが、有機溶剤中毒予防規則の業務はそのまま準用されていますので、同様に特化物も同じ扱いにしておいたほうがよさそうです。

局所排気装置があれば、防毒マスクはつけなくてもよい?

有機溶剤を用いる塗装ブースを想定しています。

法的に「防毒マスクをしなくてもよい」と云える場合は、有機溶剤中毒予防規則の第2条や第3条に該当する場合のみです。

着用しなければならない場合は、同則第32条、第33条に該当する業務です。
この2条に該当しなければ、マスクをしなくてもよいとは言い切れません。

労働安全衛生規則の第593条には、「事業者は、有害な業務には保護具を備えなければならない」としています。
同時に第597条には、「労働者は、事業者から必要な保護具の使用を命じられたときは、使用しなければならない」としています。

事業者の判断ですが、客観的に行うため、化学物質のリスクアセスメントを実施して、マスクの着用の必要性を検討することが望まれます。

このリスクアセスメントですが、塗装ブースの能力、被塗装物の形状、作業姿勢、塗料ミストの跳ね返りなど、様々な状況を想定して実施してください。

(4月7日追記)
因みに
定年退職した元労働基準監督官に聞いてみたところ、
「局所排気装置が適切に稼働しているならば、防毒マスクはしなくてもよい」という認識とのことでした。
法令で見ると、前に書いたとおりですが、そこまでガチガチではないようです。

塩基性酸化マンガンと溶接ヒュームが特化物として規制されます

5月19日一部ブロックを別記事へ
5月14日加筆
5月13日加筆

溶接ヒュームに係る最新の法改正についてはこちらをご覧ください。

化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会報告書

詳細は、上記の厚生労働省のリンクを参照してください。

概略を話しますと、
・今まで対象外であった、マンガン化合物のうち塩基性酸化マンガンが、対象となります。
・塩基性酸化マンガンは、溶接ヒュームと※溶解フェロマンガンヒュームに含まれています。
 ※溶解フェロマンガンヒューム・・・製鋼工程でフェロマンガンを添加しますが、その時に発生するヒュームのこと

溶接ヒュームに係る法改正

今までアーク溶接に関しては、
粉じん則では、防じんマスクの着用について。
じん肺法では、健康診断と事後措置について規定されていました。
今度は特定化学物質障害防止規則が加わります。

特定化学物質の分類は管理第2類物質となります。
溶接ヒュームで肺がんになる場合、粉じんが原因か、マンガンが原因か明確に区別でいないことから、発がん性があるにもかかわらず、特別管理物質にはなっていません。

第2類物質ですが、局所排気装置等の設置義務がないことと併せて、定期に作業環境測定を実施する義務はありません。ただし、全体換気装置による気中濃度低減対策は必要です。
全体換気装置等による気中濃度低減効果を確認するために、個人サンプラーを用いた気中濃度測定が必要になります。

それと同時に、必要な呼吸用保護具を選定します。

特殊健康診断は、今までじん肺健診だけでしたが、特化則として、マンガンの項目が追加されます。
頻度は6か月に1回です(特化則第39条)

項目(別表第3より)
・業務経験の有無
・せき、たん、仮面様顔貌(表情が乏しくなること)、膏顔(こうがん 脂ぎった皮膚の様子)、流涎、発汗異常、手指の振戦(しんせん 震え)、書字拙劣、歩行障害、不随意性運動障害、発語異常等のパーキンソン症候群様症状の既往歴の有無の検査
・握力の検査

精密検査になると、胸部X線撮影や、尿中又は血中マンガン量の測定などが加わります。

溶解フェロマンガンヒュームに係る法改正

溶接ヒュームは作業環境測定の義務はありませんが、溶解フェロマンガンヒュームは測定が必要です。
こちらは溶接ヒュームとしてではなく、マンガン及びその化合物に該当します。製鋼時に鋳込むフェロマンガンが60~80%マンガンが含有していますので、その取扱いは対象になります。さらに取鍋内の溶融金属内のマンガン含有率が1%超えていれば、そちらも対象になります。
測定方法は従来の作業環境測定と同じ方法になります。
特殊健康診断等は、溶接ヒュームと同じです。
<このブロックは、パブリックコメントを見て加筆しました。5月13日>

施行期日

令和3年4月1日(予定)
ですが、金属溶接ヒュームの測定や作業主任者については1年の猶予期間を設けるようです。
マンガンの作業環境測定については、猶予期間はないようです。

詳細が分かりましたら、随時更新(加筆)いたします。

はい作業主任者の選任

「はい」とは
倉庫、上屋又は土場に積み重ねられた荷の集団をいう(安衛則第427条)。
段ボールを積み上げる作業もはい作業になります。

では、作業主任者を選任しなければならない、はい作業は?
高さ2m以上に荷を積み上げ(はい付けといいます)、又は積み下ろす(はい崩しといいます)作業には、作業主任者を選任しなければなりません。

ですが、選任しなくてもよいケースがあります。
それは、
荷役機械の運転者のみによって行われる場合です。
ひとりでフォークリフトに乗り、はい付け、はい崩しを行う場合は選任する必要がありません(安衛令第6条)。
オペレーター(フォークリフト免許保持者)が2名いて、それぞれが別のフォークリフトに乗って荷役する場合も作業主任者の選任は不要ですが、作業指揮者の選任は必要です。

では
人力で、段ボールを積み上げる場合はどうなるか。
その積み上げる高さが2m以上になる場合は、一人作業でも作業主任者の選任が必要です。法的には。
ただ、それを指摘する監督官はいないだろう。と元監督官が話してました。
逆に、壁に線を引いて、はい付けの高さを2m未満に制限するよう徹底すればよいと話してました。
物理的に2m以上積み上げることができないようにする措置は不要といってました。

因みに、はい作業主任者の責務(安衛則第429条)は
1.作業方法及び順序を決定し、作業を直接指揮すること
2.器具及び工具を点検し、不良品を取り除くこと
3.当該作業を行う箇所を通行する労働者を安全に通行させるため、その者に必
  要な 事項を指示すること
4.はい崩しの作業を行うときは、はいの崩壊の危険がないことを確認した後に
  当該作業の着手を指示すること
5.1.5mを超える高さのはいの上で作業を行う場合に設置する昇降設備(安
  衛則第427条)及び保護帽の使用状況を監視すること

はい作業主任者技能講習のカリキュラム
・はいに関する知識【3時間】
・機械等によるはい付け又ははい崩しに必要な機械荷役に関する知識【3時間】
・人力によるはい付け又ははい崩しの作業に関する知識【5時間】
・関係法令【1時間】
・修了試験【1時間】

法律で必要だから。ということではなく、皆さんの会社で必要な内容だったら、社員教育の一環として受講してみてはいかがでしょうか?