取り扱っていない化学物質の特殊健康診断

「昔、ベンゼン取り扱っていたけど、もう30年前の話し。それでも特殊健康診断やらないといけないの?」

やらなければいけません

有害性が高く、何年も後になって健康影響がでる化学物質は、もう取り扱っていなくても特殊健康診断をやらなければなりません。

特殊健康診断の根拠条文は
労働安全衛生法第66条ですが、その第2項の後段(太字)が昔取り扱っていた作業者も特殊健康診断をしなければならない旨を書いてます。

事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。

その物質は、労働安全衛生法施行令第22条第2項に書かれています。

 法第六十六条第二項後段の政令で定める有害な業務は、次の物を製造し、若しくは取り扱う業務又は石綿等の製造若しくは取扱いに伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務とする。
一 ベンジジン及びその塩
一の二 ビス(クロロメチル)エーテル
二 ベータ―ナフチルアミン及びその塩
三 ジクロルベンジジン及びその塩
四 アルフア―ナフチルアミン及びその塩
五 オルト―トリジン及びその塩
六 ジアニシジン及びその塩
七 ベリリウム及びその化合物
八 ベンゾトリクロリド
九 インジウム化合物
九の二 エチルベンゼン
九の三 エチレンイミン
十 塩化ビニル
十一 オーラミン
十一の二 オルト―トルイジン
十二 クロム酸及びその塩
十三 クロロメチルメチルエーテル
十三の二 コバルト及びその無機化合物
十四 コールタール
十四の二 酸化プロピレン
十四の三 三酸化二アンチモン
十五 三・三′―ジクロロ―四・四′―ジアミノジフエニルメタン
十五の二 一・二―ジクロロプロパン
十五の三 ジクロロメタン(別名二塩化メチレン)
十五の四 ジメチル―二・二―ジクロロビニルホスフェイト(別名DDVP)
十五の五 一・一―ジメチルヒドラジン
十六 重クロム酸及びその塩
十六の二 ナフタレン
十七 ニツケル化合物(次号に掲げる物を除き、粉状の物に限る。)
十八 ニツケルカルボニル
十九 パラ―ジメチルアミノアゾベンゼン
十九の二 砒ひ素及びその化合物(アルシン及び砒ひ化ガリウムを除く。)
二十 ベータ―プロピオラクトン
二十一 ベンゼン
二十二 マゼンタ
二十二の二 リフラクトリーセラミックファイバー
二十三 第一号から第七号までに掲げる物をその重量の一パーセントを超えて含 
有し、又は第八号に掲げる物をその重量の〇・五パーセントを超えて含有する製 
剤その他の物(合金にあつては、ベリリウムをその重量の三パーセントを超えて 
含有するものに限る。)
二十四 第九号から第二十二号の二までに掲げる物を含有する製剤その他の物 
で、厚生労働省令で定めるもの

ただし、各特別則で適用除外としている作業(省令に定めるもの)は除く
(法原文は物質名が書いていないので管理人が書き換え、意味をたがえない程度に、以下は書きおろしています。)

 オーラミン若しくはマゼンタに掲げる物又は第二十四号に掲げる物でオーラミン若しくはマゼンタに係るものを製造する事業場以外の事業場においてこれらの物を取り扱う業務
 クロム酸及びその塩若しくは重クロム酸及びその塩に掲げる物又は第二十四号に掲げる物でクロム酸及びその塩若しくは重クロム酸及びその塩に係るものを鉱石から製造する事業場以外の事業場においてこれらの物を取り扱う業務
 エチルベンゼン、コバルト及びその無機化合物、酸化プロピレン、三酸化二アンチモン、一・二―ジクロロプロパン、一・二―ジクロロプロパン、ジクロロメタン、ジメチル―二・二―ジクロロビニルホスフェイト、ナフタレン若しくはリフラクトリーセラミックファイバーに掲げる物又は第二十四号に掲げる物でインジウム化合物、エチルベンゼン、コバルト及びその無機化合物、酸化プロピレン、三酸化二アンチモン、一・二―ジクロロプロパン、ジクロロメタン、ジメチル―二・二―ジクロロビニルホスフェイト、ナフタレン若しくはリフラクトリーセラミックファイバーに係るものを製造し、又は取り扱う業務

令別表3、令22条2項及び特別管理物質の比較表を作りましたので参考まで。

 雇い入れ時の特殊健康診断の結果の保存期間は、
     有機溶剤 特化物(特別管理物質は除く) 5年
     特化物(特別管理物質)        30年 となっています。
 近年は有害性の見直しで、保存年数が延長される物質が出ています。
 例えば、過去にベンゼンを取り扱っていた作業者の特殊健診で、毎回貧血で有所見をなる場合、雇い入れ時の健診結果がないと、体質なのか業務性なのか判断がつかない場合があります。
 特化則の健診結果の保存は、昭和50年に第40条が改正されるまでは30年ではありませんでした。だから以前の特殊健診の結果は廃棄していたので確かめようがないのです。
 法で定める保存年数とは関係なく、有害物を取り扱うことになった作業者の雇い入れ時の特殊健康診断結果は、できれば廃棄せずに保管したほうが良いと思います。

局排に係る特例許可(特化則)

 特化則では、局所排気装置の性能要件が制御風速のものと、抑制濃度のものがあります。
 その抑制濃度の場合の設置届と特例許可について説明します。

 フローで書くとこのようになります。
 抑制濃度は「局所排気装置を設置する」→「抑制濃度が定められている場合」へ進みます。
 特例許可は「局所排気装置を設置しない」へ進んだ場合必要になります。
 ご覧のとおり面倒です。
 発散防止抑制装置については、特例許可を申請しても許可が下りない場合があります。この許可、不許可の基準は公表されていませんが、排気が屋内の場合は除ガス装置等出口に警報装置が必要といわれています。

 これだけ骨を折っても、作業環境測定は除外されませんのでご注意ください。

密閉装置の排気について(鉛関係)

先の粉じんや有機溶剤等と違います。
これらは局所排気装置等に該当するならば屋外に排気しなければいけない。と云っています。
鉛中毒予防規則(以下、鉛則)は局所排気装置等のほかに、ろ過集じん方式の集じん装置(ろ布式集じん装置)についても規制しています。

「局所排気装置についている集じん機となにが違うの?
鉛則では、局所排気装置についている集じん機を「ろ布式除じん装置」、鉛の生産設備の一環として備えられている集じん機を「ろ布式集じん装置」と区別しています。(昭和42年3月31日 基発第442号 当時は第21条だったので、21条関係に書いてあります)

設備の一環?
粉じんで書いた、密閉装置内を負圧にするためにある設備が該当します。
他の例として、空気を配管に流して、その力を利用して粒子状物質を搬送するルーツブロア、ターボブロアも該当します。

このように、貯蔵タンクに入っている鉛の粉をファンの吸引力を用いて開口部から空気を吸い込み、その空気と貯蔵タンクから落ちてきた鉛の粉もろ共計量ホッパーに搬送し、計量ホッパー→集じん機→ファン→排気口へと空気は出てきます。
目的は「搬送」になるのと、鉛則で除じん装置の設置が義務付けられている作業ではないので、局所排気装置に該当しません。( 昭和42年3月31日 基発第442号)
ですが、鉛則ではこの排気口を屋外に設けることを規定しています。

(ろ過集じん方式の集じん装置)
第二十二条  事業者は、粉状の鉛等又は焼結鉱等に係るろ過集じん方式の集じん装置(ろ過除じん方式の除じん装置を含む。)については、次の措置を講じなければならない。ただし、作業場から隔離された場所で労働者が常時立ち入る必要がないところに設けるものについては、この限りでない。
  一  ろ材に覆(おお)いを設けること。
  二  排気口は、屋外に設けること。
  三  ろ材に付着した粉状の鉛等又は焼結鉱等を覆(おお)いをしたまま払い落とすための設備を設けること。

屋内排気でもよい理由を探すより、屋外に排気することを考えるようにしましょう。

密閉装置の排気について(有機溶剤、特化物関係)

前に粉じん関係について書きましたが、基本的な考え方は同じです。
ですが、蒸気やガスになる有害物については注意が必要です。

有機溶剤の場合

法的に、密閉装置とは?といった説明がありません。
参考までに、「有機溶剤作業主任者テキスト」には、「密閉構造というのは、多少内部が加圧状態になっても有機溶剤上記が外に漏れ出さない構造をいう。」とあります。このような構造が望まれます。

密閉した状態ならばよいですが、密閉装置を開放する場合は、送気マスク又は防毒マスクの着用が義務になります(有機則第33条第1項第7号)。
ですが、よくある洗浄溶剤などが入っているちょっとした容器にある蓋を開ける場合は、密閉装置を開放するというよりも、その後何をするかによって、局所排気装置を設置したほうが良い場合があるので注意してください。

ある自動洗浄機能を持つ印刷機で、囲いがされて密閉状態と判断される装置があるとします。ですが、床付近に隙間があり有機溶剤蒸気が漏洩してくるケースがあります。

また、密閉装置に排気装置がある場合、この排気装置は局所排気装置に該当しないので屋内排気でも法的に問題ないことになります。
本来、その密閉設備を設置する際には、所轄監督署に設置届を出さないといけません。その設置届には、密閉設備の場合、密閉の方式及び当該設備の主要部分の構造の概要を記載しないといけません。
その内容を、所轄監督署が精査してくれていればいいのですが、有機溶剤蒸気がだだもれの設備も見受けられます。

法律で問題なくても、労働衛生上、きちんと屋外に排気することが望まれます。
あからさまに有機溶剤蒸気が排気されている場合、
「密閉設備だから、負圧に保つために排気しているものは局所排気装置に該当しないので、屋内排気でも問題ない」と主張しても、有機則第13条の2に基づき特例許可を受けなさい。と云われる可能性があります。

第十三条の二 事業者は、第五条の規定にかかわらず、次条第一項の発散防止抑制措置(有機溶剤の蒸気の発散を防止し、又は抑制する設備又は装置を設置することその他の措置をいう。以下この条及び次条において同じ。)に係る許可を受けるために同項に規定する有機溶剤の濃度の測定を行うときは、次の措置を講じた上で、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備、局所排気装置及びプッシュプル型換気装置を設けないことができる。

この法律は「所定の性能を有する発散防止抑制装置を付ければ密閉装置、局所排気装置などを付けなくていいですよ。だけど、監督署長の許可をもらってね。」というもの。
所定の性能は、屋内排気しても安全であることが求められています。活性炭カートリッジなどで、排気空気に含まれている有機溶剤蒸気を除去するうえに、活性炭フィルターが飽和して、有機溶剤蒸気が室内に出てきたら、警報などで知らせる装置がなければいけないとしています。
めんどくさいです。そういった装置をメーカーから購入するのが近道です。

特化則の場合

有機溶剤とほぼ同じです。
同じような法律(特化則第6条の2)があります。

第六条の二 事業者は、第四条第三項及び第五条第一項の規定にかかわらず、次条第一項の発散防止抑制 措置(第二類物質のガス、蒸気又は粉じんの発散を防止し、又は抑制する設備又は装置を設置することその他の措置をいう。以下この条及び次条において同じ。)に係る許可を受けるために同項に規定する第二類物質のガス、蒸気又は粉じんの濃度の測定を行うときは、次の措置を講じた上で、第二類物質のガス、蒸気又は粉じんの発散源を密閉する設備、局所排気装置及びプッシュプル型換気装置を設けないことができる。

コバルトを含有する合金の研磨を行う湿式研磨装置は、オイルミストが発生するので、密閉設備になっているケースが多いと思います。その密閉装置にはオイルミストコレクターで加工時に発生するオイルミストを捕集し、排気はそのまま屋内に出しています。
密閉設備なら内部を負圧に保つ装置として捉えられると思いますが、研磨部が開放されている装置については、上の特化則第6条の2の許可が必要になるおそれがありますので、注意してください。

溶接ヒューム内のマンガン(速報)

16日に
「マンガン及びその化合物並びに溶接ヒュームに係る健康障害防止措置の検討について」の検討会(資料)がありました。
議事録はまだですが、傍聴したところ、ほぼ決定なのでお知らせします。

「塩基性酸化マンガンは除く」が外れます

海外ではもともと、塩基性酸化マンガンも規制対象です。日本は今まで除外されていましたが、塩基性酸化マンガンも他のマンガン(両性、酸性酸化マンガン)と同様に神経機能障害がみられることから、すべてが対象となります。

「溶接ヒューム」として、新たに特化物に加わります

他のマンガン取り扱いとは差別化して、溶接作業を規制する意味で、別の特化物となります(管理第2類)。
溶接ヒュームの中にマンガンが含まれていますが、今までは粉じん則として管理されてきましたが、発がん性を考慮した管理が始まります。
溶接によるじん肺と、マンガンによる肺がんとで、区別が出来ないことから、「特別管理物質」としての管理はされません。
特別管理物質になると、健康診断や環境測定及び作業記録の保存年数が30年になってしまいます。

作業環境測定はしなくてよい

定期的の作業環境測定は義務化しない方向のようです。
ですが、個人サンプラーを用いた作業環境測定を行って、保護具を決定する必要があるようです。
まだ、個人サンプラーを用いた作業環境測定については、パブリックコメントで意見を聞いているところです(ほぼ内容は決定してますが)。
この測定の施行に合わせると思います。
溶接ヒュームは熱上昇を伴うので、普通の作業環境測定だと過小評価してしまうので個人サンプラーを用いた方法を採用するようです。

溶解フェロマンガンヒューム(製鉄業)も溶接と同じようにマンガンにばく露してしまいますが、こちらも「溶接ヒューム」としての管理に含まれるのかは議事録で確認しないとちょっとわかりません。

議事録が発表されたら、また続報します。

はんだ付け作業の範囲(鉛則)

はんだ付けとは、はんだによって金属を継ぎ合わすこと。
Wikipediaより

手作業では、線はんだをこてで溶かし、プリント基板と電子回路部品を付ける作業です。
しかし、自動になると、はんだ槽の溶けたはんだを噴流させ、盛り上がった溶融はんだとその上を通るプリント基板の裏面(下の面)を触れさせ、電子回路部品をはんだ付けするという工程になります(フロー方式)。

はんだ付けではあるけど、はんだ槽ではんだを溶かすということで、鉛ライニングになるのでは?

鉛ライニングは、鉛の被膜を成形する。または鉛コーティングが目的なので、はんだ槽でプリント基板に塗布する様な工程であっても、目的は電子回路部品の接合なので、鉛ライニングにはならないらしいです。
同様に、鉛噴流装置でプリント基板に付けたはんだ部分を溶かし、電子回路部品を取り外す作業も、はんだ作業の一環と判断してもよいようです。

↑の判断ですが、別フロアではんだ付けしたプリント基板の修正で、別部屋にもってきて鉛噴流装置をもちいて電子回路部品を取り外す作業の作業環境測定は必要か問い合わせたところ、不要との回答をもらいました。
部屋が違っていても、プリント基板のはんだ付けの一環と判断されるようです。

線はんだではなく、棒はんだをアセチレンバーナーで溶かすロウ付けという作業があります。
こちらは同じ作業でも、コーティング目的と接着目的とで、前者は鉛ライニング、後者ははんだ付けと判断されるようです。

鉛ライニングは、法的に局所排気装置又はプッシュプル型換気装置の設置が義務(鉛則第11条)になりますが、はんだ付けは、局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置の設置が義務になります。裏を返せば、おなじロウ付け作業でも後者は全体換気装置で問題ないことになります。
ですが、労働衛生的には、ロウ付けによるはんだ付けでも、局所排気装置の設置が望まれます。

はんだ付け作業場に全体換気装置を設置する場合は、法的に、必要な能力が定められています。

全体換気装置の必要能力 (m/時間 )の計算
例 はんだ付け作業者 2名
  はんだ付け作業者を含めた在室している全作業者 5名

   はんだ付け作業者2名×100m/時間/名 =200m/時間
   全作業者    5名× 30m/時間/名 =150m/時間

上のほうが下より大きい場合、上の数字以上の能力を。
下の人数が7名だと、下は210m/時間になり、210m/時間を超える能力にしなければならないとしている(昭和42年3月31日 基発第442号)。

自分の会社が大丈夫なのか、計算してみましょう♪