5月19日加筆
5月15日加筆
6月19日加筆
特定化学物質障害予防規則及び寛容測定法施行規則の一部を改定する省令(令和2年4月22日厚生労働省令第89号)
令和2年4月22日 省令第89号
化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会
同報告書(全文)(PDF)
パブリックコメント
法改正の官報と、その根拠となった検討会ページ、検討会報告書(全文)及びパブリックコメントです。
詳細は直接読んでいただくとして、一部ピックアップして、簡単に説明します。
(金属アーク溶接等作業に係る措置)
第三十八条の二十一
事業者は、金属をアーク溶接する作業、アークを用いて金属を溶断し、又はガウジングする作業その他の溶接ヒュームを製造し、又は取り扱う作業(以下この条において「金属アーク溶接等作業」という。)を行う屋内作業場については、当該金属アーク溶接等作業に係る溶接ヒュームを減少させるため、全体換気装置による換気の実施又はこれと同等以上の措置を講じなければならない。この場合において、事業者は、第五条の規定にかかわらず、金属アーク溶接等作業において発生するガス、蒸気若しくは粉じんの発散源を密閉する設備、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設けることを要しない。
金属アーク溶接作業の範囲
溶接棒やワイヤにマンガンが含有していなくても、溶接ヒューム内にマンガンが含まれていることから、含有率に関係なく、すべてのアーク溶接、プラズマ溶接が対象になります(ガウジング含む)
この第38条の21で、溶接ヒュームに関して「別表第1 34の2」と触れていないので、34の2に書かれている「1%以下のものを除く」は適用されないと考えるようです。参考までに、検討会報告書内に溶接ヒューム中のマンガンを分析した例がありました。軟鋼系溶接棒を用いた被覆アーク溶接では、2.56~2.77%だそうです。
自動溶接を行う場合、金属アー ク溶接等作業には自動溶接機による溶接中に溶接機のトーチ等に近付く等、溶接ヒュームにばく露するおそれのある作業が含まれ、溶接機のトーチ等から離れた操作盤の作業、溶接作業に付帯する材料の搬入・搬出作業、片付け作業等は含 まれないことを通達で示す予定。
また、屋内外関わらず対象としています。(パブコメより)
法規制が掛からない溶接は、アセチレンガスにより接合するガス溶接はアークの発生熱より低いとされ、溶接ヒュームが出ない(少ない)ことから対象外とされています。
対象になるかどうか不明な溶接は、圧接に該当するスポット溶接、シーム溶接、プロジェクション溶接です。これらは金属同士を押し付けて、そこに電気を通して発生した熱で溶接するものですが、サイト、記事によってはアーク溶接に含まれているものもあれば含まれていないものもあります。よくスポット溶接機でスパッタが飛ぶのを見かけますが、適切な圧力、電圧で行っていればスパッタは発生しないそうです。あのスパッタは接合部の溶けた金属が圧力で飛び出しているので、強度が落ちるそうです。
溶解フェロマンガンヒュームについて補足
フェロマンガンは鉄とマンガンの合金です。溶接や製鉄で発生するヒュームは、酸化マンガン、このフェロマンガンの化合物が多いです。製鉄で鉄の代わりに珪素を含んだシリコマンガンを鋳込むことがありますが、シリコマンガンは溶けて、マンガンはフェロマンガンになり、珪素分は非晶性シリカとして発生しているようです。
局所排気装置等を設けることを要しない。とした件
局所排気装置を設置した作業場であっても、環境改善の効果が顕著に表れていないことから、設置義務を除いたものと考えられます。
溶接を特定の場所で、適切に設計された局所排気装置ならば効果が見込められますが、広い定盤であちこちに移動して溶接するような場合は局所排気装置の設置の費用対効果は低いと思われます。
第2項
事業者は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において、新たな金属アーク溶接等作業の方法を採用しようとするとき、又は当該作業の方法を変更しようとするときは、あらかじめ、厚生労働大臣の定めるところにより、当該金属アーク溶接等作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う測定により、当該作業場について、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定しなければならない。
「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場」には、建築中の建物内部等で当該建築工事等に付随する金属アーク溶接等作業であって、同じ場所で繰り返し行われないものは含まれないことを通達で示す予定です。(パブコメより)
つまり、屋内たらしめている構造物がなくなる場合は継続に該当しない。ということになりそうです。普通の建屋内での溶接作業は、たとえ巨大なものであっても対象となりそうです。ただし、建屋がスライドして天井、壁が開放され、クレーンで運搬する船舶の船体ブロックの溶接作業については監督署判断になりそうです。
この第2項の測定は、労働安全衛生法第65条に基づく作業環境測定ではなく、同法第22条に基づく健康障害を防止するための措置に係る測定に該当します。(報告書より)
個人サンプリングによる空気中の溶接ヒュームの濃度の測定の実施者については、法令上の規定は設けませんが、第一種作業環境測定士、作業環境測定機関等の十分な知識及び経験を有する者により実施されるべきであることを通達で示す予定です。(パブコメより)
第65条に基づいて測定を行う場合、個人サンプラーを用いた測定を業務規程に盛り込み、登録証を書き換えた測定機関で、かつ測定士も必要な講習を修了して登録した者でないと実施できない状態です。パブコメでどのような要件の者が実施できるようになるかまだ不明ですが、第65条に基づく前述の測定機関でないと、個人サンプラーを用いた測定は難しいと思われます。現状、そのための講習会もCOVID-19により行われていない状態です。この測定実施の猶予が令和4年3月31日ですが、間に合わないかもしれませんね。(個人の意見)
この一連の溶接ヒュームの測定は、粉じんとしてではなく、マンガン(レスピラブルダスト)を測定します。
第3項
事業者は、前項の規定による空気中の溶接ヒュームの濃度の測定の結果に応じて、換気装置の風量の増加その他必要な措置を講じなければならない。
測定結果に応じて、十分に環境改善措置を検討し、その措置をあらかじめ実施している作業場に、さらなる改善措置を求める趣旨ではない。(報告書より)
第5項
事業者は、金属アーク溶接等作業に労働者を従事させるときは、当該労働者に有効な呼吸用保護具を使用させなければならない。
既に粉じん則の別表3で、溶接作業者については、屋内外問わず、防じんマスクの着用について定められています。
第6項
事業者は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において当該金属アーク溶接等作業に労働者を従事させるときは、厚生労働大臣の定めるところにより、当該作業場についての第二項及び第四項の規定による測定の結果に応じて、当該労働者に有効な呼吸用保護具を使用させなければならない。
第7項
事業者は、前項の呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)を使用させるときは、一年以内ごとに一回、定期に、当該呼吸用保護具が適切に装着されていることを厚生労働大臣の定める方法により確認し、その結果を記録し、これを三年間保存しなければならない。
第6項、第7項の呼吸用保護具については、現在情報収集中です。
選定した呼吸用保護具が面体形の場合は着用の状態を確認することとなっています。その確認方法は定量的フィットテストとしています。ルーズフィット形を選んだ場合は装着性の確認については特に規定されていません。
定量的マスクテストですが、マスクフィッティングテスターを用いてマスクの外と内の粉じん濃度を測定する方法と、サッカリン等甘味を感じる粒子状物質を用いて行う方法があります。マスクフィッティングテスターの方は簡単に計測する方法と、右向いて左向いてなど動作を伴う方法があり、後者をしなければならないとなると、時間とコストが掛かるので、わかり次第加筆します。
また、そもそもですが、
第38条の21 「溶接ヒュームを製造し、」というくだり
パブコメには、労働安全衛生法施行令(昭和 47 年政令 第 318 号)第 21 条等の「製造し、又は取り扱う」特定化学物質には、溶接ヒュー ムの他にも、副次的に生成されるコールタール、五酸化バナジウム等があります。このように、「製造」は、非意図的な生成をも含む趣旨で運用されています。と書いてます。
コールタールは防腐剤として用いられますが、石炭をコークス炉で焼成するときも発生します。そちらはコークス炉の対策として特化則に規定されています。このコークス炉から副次的に発生するコールタールを捕集して、製品にしているならば製造に該当します。別の物質でも副次的に発生したものを捕集精製して使用するならば製造に該当するとした通達が出ています(昭和47年12月23日 基発第799号)。これを踏まえると溶接ヒュームは製造に該当しないと思われます。(溶接ヒュームは「製造」として例外的に取り扱うらしいです)
「製造」とする場合、特化則の第4条の規定が関わってきます。こちらでは密閉式の構造としなければならない。と書いてあります。
38条の21には、「~~この場合において、第5条の規定に関わらず~設けることを要しない」とありますが、第4条まで適用除外を含んでいないことから、第4条について対応が必要になるかもしれません。
<以下、5月19日加筆、修正>
施行令別表第3 34の2 溶接ヒューム
施行令別表のほうは、含有率によるくくりはありません。すべて対象です。
こちらはどのような規制に関わるかは、
施行令第6条 作業主任者を選任すべき作業・・・選任の義務あり
同令第9条の3 法第31条の2の政令で定める設備・・・対象外
同令第17条 製造の許可を受けるべき有害物・・・対象外
同令第18条 名称等を表示すべき危険物及び有害物・・・対象外
同令第18条の2 名称等を通知すべき危険物及び有害物・・・同令別表第9の改正案が出されていないことから、SDS等の通知義務はないと考える
同令第21条 作業環境測定を行うべき作業場・・・マンガンは該当するが、溶接ヒュームは該当しないので、法65条に係る作業環境測定の義務はない
同令第22条 健康診断を行うべき有害な業務・・・溶接ヒュームは除外されないから実施しなければならない。ただし、特化則に別に規定されているので、次のブロックで説明します。
特化則別表第1 34の2 溶接ヒュームを含有する製剤その他の物。ただし、溶接ヒュームの含有率が重量の1%以下のものを除く。
特化則別表第3 62号 溶接ヒューム(これをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務
特化則の方には含有率について触れられています。マンガンの方に含有率が書かれるのはわかるのですが、溶接ヒュームについてはどのように考えればよいのか。
検討会の議事録を読み返しましたが、全く、ほんとにこれっぽっちも触れられていません。この定義がどこから出てきたのか不明です。
前の方に溶接ヒューム内のマンガンは2.56~2.77%と書きましたが、溶接ヒュームはすべて1%超えると判断するのか。そのことを明文化する必要があるのではないかと思います。
6月19日追記
特化則別表第1と3の「重量の1%」の部分ですが、厚生労働省関係者に確認しましたが、マンガンの含有量ではなく、溶接ヒュームそのもののことを指すそうです。まさしく書いてある通りでした。
「実際に溶接ヒュームという製品が出回るということはないと思いますが、、、」とも云っていました。
↑について追記(R3.2.9)
溶接ヒュームの取り扱いは、清掃や集じん機のダスト回収が該当するそうです。
特殊健康診断について(R3.2.9追記)
「溶接ヒューム」は、上の図のように「マンガン又はその化合物」とは別の号になっていますので、健康診断は別物になります。
溶接作業者は「溶接ヒューム」の健康診断をすればよく、「マンガン」についてはやる必要がありません。
しかし、ステンレス(SUS300番台)の場合、ガス切断やグラインダー研磨を行う場合は「マンガン」としての健康診断をする必要があります。
では、ステンレスを溶接し、そのあとグラインダーで研磨する場合はどうなるか。
グラインダー研磨が溶接の一環である場合は、「溶接ヒューム」として個人サンプラーによる測定を行っているので「溶接ヒューム」のみやればよいと考えられます。ですが、溶接とは関係なく研磨を行う場合は「マンガン」として行う必要があるかもしれません。この件については私ではなく直接局に聞いたほうがよいと思います。(所轄県労働局の知り合いに聞いたところ、まだそこまで議論できていないそうです。)
健診項目はほぼ同じですが、結果報告書は別になります。
その料金ですが、別料金又はセット料金で結果報告書を分けて出す等健康診断機関によって色々なケースが考えられますので、お願いする健診機関と相談しましょう。