令和7年 熱中症対策

新しい通達が4月上旬にでると聞いていたのですが、実際にでたのは5月20日でした。
職場における熱中症予防について
(山形労働局のサイト)

背景としては、第174回安全衛生分科会資料にもあります。

初期状態の放置・対応の遅れが重要と判断されました。
熱中症の重篤化を防止するためには、熱中症が生じた疑いのある者について、早期の作業離脱や身体冷却、必要に応じ、医師の診断等を受けさせるための医療機関への搬送を迅速かつ的確に行うことが重要です。
そのために
① 熱中症の自覚症状を有する作業者や熱中症が生じた疑いのある作業者を発見した者がその旨を報告するための体制を事業場であらかじめ整備しておく
② 熱中症の自覚症状を有する作業者や熱中症が生じた疑いのある作業者への対応に関し、事業場の緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先並びに必要な措置の内容及び手順を事業場ごとにあらかじめ作成しておく
③ 当該体制や手順等について作業者へ周知することを事業者に義務付ける
ことが必要です。
新しく追加された省令には以上のことを整備するために定めています<管理人追記分>

労働安全衛生規則第612条の2 第1項
 事業者は、暑熱な場所<WBGT値が28度以上又は気温が31度以上 原則実測だが、熱中症予防情報サイト等の情報を利用してもよい 事業場内外に限らず、出張先、複数の場所での作業、移動中も含む>において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業<継続して1時間以上又は1日当たり4時間超 非定常、臨時作業も含まれる>を行うときは、あらかじめ、当該作業に従事する者が熱中症の自覚症状を有する場合又は当該作業に従事する者に熱中症が生じた疑いがあることを当該作業に従事する他の者が発見した場合にその旨を報告させる体制を整備し、当該作業に従事する者に対し、当該体制を周知させなければならない。

第1項を解説していきますが、体制の例として、下のように例示されています。

「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」令和7年5月20日付け基発0520第6号 別添2より)

 連絡を受ける責任者は、熱中症が生じるおそれのある作業中は随時報告を受けることができる状態を保つ必要があります。
 また、電話等による報告を受けるだけでなく、積極的に熱中症が生じた疑いのある作業者を早期に発見する観点から、
 ・ 責任者等による作業場所の巡視
 ・ 2人以上の作業者が作業中互いに健康状態を確認できる体制(バディ制)の採用
 ・ ウェアラブルデバイスを用いた作業者の熱中症のリスク管理
 ・ 責任者、労働者双方向での定期連絡
これらの措置を組み合わせた対応が推奨されています。
なお、ウェアラブルデバイスは色々開発、販売されていますが、タイプによっては得手不得手があります。実際に検証し、どの程度まで信頼するかを確認することをお勧めいたします。

 「周知」については、事業場の見やすい箇所への掲示、メールの送付、文書の配布のほか、朝礼における伝達等口頭によるものが挙げられます。いずれも、作業者が「知らなかった」と言わせないよう、複数の対応が望まれます。

労働安全衛生規則第612条の2 第2項
 事業者は、暑熱な場所において連続して行われる作業等熱中症を生ずるおそれのある作業を行うときは、あらかじめ、作業場ごとに、当該作業からの離脱、身体の冷却、必要に応じて医師の診察又は処置を受けさせることその他熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容及びその実施に関する手順を定め、当該作業に従事する者に対し、当該措置の内容及びその実施に関する手順を周知させなければならない。

 第2項の解説ですが、
「身体の冷却」については
 ・作業衣を脱がして水をかけること
 ・アイスバスに入れること
 ・十分に涼しい休憩所に避難させること
 ・ミストファンを当てること
 等の体外から体を冷やすほか、アイススラリーという流動性の氷状飲料(飲めるかき氷的なもの)を飲ませるなど体内から冷やすことが挙げられています。
 また、冷却中に容態が急変する場合があることから、作業者を一人きりにすることなく、他の作業者が見守ることが大切です。できれば、意識のあって自力で水分補給などできる状態であっても、会話などをして、意識の状態を常に確認しておくことが望まれます。会話の内容がかみ合わない、応答が遅れるなどに気づいたら救急搬送してください。
 救急搬送がためらわれる場合や対応がわからない場合は、#7119を活用し、専門機関や医療機関に相談し、速やかに専門家の指示を仰ぐことが望まれます。

関係条文

労働安全衛生法第22条(事業者の講ずべき措置等)
事業者は、次の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
 二 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害

労働安全衛生法第59条(雇い入れ時教育)、第60条(職長教育)における事故時等や異常時における措置に含まれる。

労働安全衛生規則第606条(温湿度調節)
 事業者は、暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場で、有害のおそれのあるものについては、冷房、暖房、通風等適当な温湿度調節の措置を講じなければならない。

労働安全衛生規則第614条(有害作業場の休憩設備)
 事業者は、著しく暑熱、(略)、有害な作業場において休憩設備を設ける場合には、直射日光を遮る、冷房設備を設置する、ミストファンを使用する等により、休憩設備の内部の温湿度を低下させる措置を講ずることが望ましい。

労働安全衛生規則第617条(発汗作業に関する措置)
 事業者は、多量の発汗を伴う作業場においては、労働者に与えるために、塩<塩飴、塩タブレット、スポーツドリンク中に含まれる塩分を含む>及び飲料水を備えなければならない。

むすびに

 ここまで、通達の文章と、それに管理人の補足を加えて書いてきました。
 この改正法令の施行が令和7年6月1日からなので、それまでに体制を整え、周知する必要があります。冒頭の山形労働局のサイトに上がっている通達をよく読み、職場で対応できる形にして、管理監督者および作業者に周知してください。
 業種や人員的に職場からの離脱が困難なところもあると思いますが、それも踏まえて対応を話し合っておくとよいでしょう。

一般消費者の生活の用

はじめに

 化学物質のリスクアセスメントをしなければならない物質が最終的に約2900物質まで増えます。
 また、令和6年からは化学物質管理者を選任しなければならなくなったので、改めてリスクアセスメントを取り組む会社さんもあると思います。
 リスクアセスメントについて疑問がある場合は、厚生労働省がQ&Aを出しているので、そちらを参考にされるとよいでしょう。

 リスクアセスメント対象物を業務で使用していれば実施しなければなりませんが、ラベルやSDSの交付が除外されているケースについては除外されています。それが、「一般消費者の生活の用に供されるための製品」です。

 私は文字通り、一般家庭で使う場合のことを想定していました。ですが、コロナ禍でほぼすべての職場で手指消毒に用いるアルコールも、営業車に自分で補充するウォッシャー液にも、リスクアセスメント対象物であるエタノールやメタノールが入っています。だから、スーパーや銀行でも消毒用アルコールを使用するところはリスクアセスメントをしなければならないし、化学物質管理者を置かなければならないと認識していました。
 ですが、そうなるとほぼすべての会社は化学物質管理者を選任しなければならなくなり、各地で講習会が開かれますが到底回数が足らず、受けられない会社が出てくると。なので、思い込みではなく、ちゃんと都道府県の労働局の衛生専門官さんに確認しました。

一般消費者の生活の用に供されるための製品

「『一般消費者の生活の用に供されるための製品』の意味は、限定した用途で販売されている物を指します。商品が単一の目的、用途で販売されていて、それ以外に使用することがない物です。つまり、手指消毒用のアルコール、ウォッシャー液などは、仕事、家庭に関わらず、量に関わらず、ほかの用途に使うことがないので、労働安全衛生法57条の3に基づくリスクアセスメント(実施義務)は対象外になります。」
「ですが取り扱いに際し、裸火のあるところで大量に取り扱うと火災が発生したり、多量にこぼすと気持ち悪くなることがあるので、労働安全衛生法28条の2に基づくリスクアセスメント(努力義務)を実施する必要があります。」
 以上のように、化学物質の知識のない一般の人が使っても問題がないような単一用途の製品の取り扱いについては、法57条の3のリスクアセスメントの実施や化学物質管理者の選任義務はないようです。
 ですが、法28条の2の(努力)義務はありますので、対応するようにしましょう。

(事業者の行うべき調査等)
第二十八条の二 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等(第五十七条第一項の政令で定める物及び第五十七条の二第一項に規定する通知対象物による危険性又は有害性等を除く。)を調査し、その結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。ただし、当該調査のうち、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれのあるものに係るもの以外のものについては、製造業その他厚生労働省令で定める業種に属する事業者に限る。
2 厚生労働大臣は、前条第一項及び第三項に定めるもののほか、前項の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
3 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。
(第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物について事業者が行うべき調査等)
第五十七条の三 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物による危険性又は有害性等を調査しなければならない。
2 事業者は、前項の調査の結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。
3 厚生労働大臣は、第二十八条第一項及び第三項に定めるもののほか、前二項の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
4 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。

令和6年法改正までにやること

令和6年度に化学物質管理に係る安衛法改正があります。

R6リーフレット

それまでに何をすればよいのか?

それ以前に、化学物質のリスクアセスメントは実施していますか?
法改正の内容は、リスクアセスメントが定着していると理解しやすいです。
まったく実施していないと、宇宙語レベルでわからないと思います。
リスクアセスメントというと、労働安全衛生法第28条の2を思い浮かべると思いますがそれではなく、
労働安全衛生法第57条の3です。(平成27年12月1日施行)

(第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物について事業者が行うべき調査等)
第57条の3 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物による危険性又は有害性等を調査しなければならない。
2 事業者は、前項の調査の結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。
3 厚生労働大臣は、第二十八条第一項及び第三項に定めるもののほか、前二項の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。
4 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。

この57条の3は実施義務なので、リスクアセスメントを行わなければなりません。
簡単なフローを書くと下の通りです(分かりやすさ優先)

R6までの準備-1

化学物質のリスクアセスメントは事業場規模、業種に関係なく対象となります。
講習会は「化学物質 リスクアセスメント 講習会」で検索かけると出てきます。
厚生労働省でも無料でwebセミナー実施していました。

濃度基準値やがん原性物質などはまだ決まっていないので、順次決まってから対応していきましょう。

また、作業環境測定で第3管理区分が継続しているところは、第1、第2管理区分に環境改善しておくと良いので、作業環境測定機関さんと相談しましょう。

保護具着用管理責任者については、講習の受講義務はありません。
有害物をお使いであれば、作業主任者を選任していると思いますので、その作業主任者を保護具着用管理責任者に選任すればよいと思います。
選任したい作業主任者が「自信ない」ようでしたら、インターネットでは一部の労働基準協会さんで実施するようですので、そちらを受けてみてはいかがでしょうか。

取り扱っていない化学物質の特殊健康診断

「昔、ベンゼン取り扱っていたけど、もう30年前の話し。それでも特殊健康診断やらないといけないの?」

やらなければいけません

有害性が高く、何年も後になって健康影響がでる化学物質は、もう取り扱っていなくても特殊健康診断をやらなければなりません。

特殊健康診断の根拠条文は
労働安全衛生法第66条ですが、その第2項の後段(太字)が昔取り扱っていた作業者も特殊健康診断をしなければならない旨を書いてます。

事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。

その物質は、労働安全衛生法施行令第22条第2項に書かれています。

 法第六十六条第二項後段の政令で定める有害な業務は、次の物を製造し、若しくは取り扱う業務又は石綿等の製造若しくは取扱いに伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務とする。
一 ベンジジン及びその塩
一の二 ビス(クロロメチル)エーテル
二 ベータ―ナフチルアミン及びその塩
三 ジクロルベンジジン及びその塩
四 アルフア―ナフチルアミン及びその塩
五 オルト―トリジン及びその塩
六 ジアニシジン及びその塩
七 ベリリウム及びその化合物
八 ベンゾトリクロリド
九 インジウム化合物
九の二 エチルベンゼン
九の三 エチレンイミン
十 塩化ビニル
十一 オーラミン
十一の二 オルト―トルイジン
十二 クロム酸及びその塩
十三 クロロメチルメチルエーテル
十三の二 コバルト及びその無機化合物
十四 コールタール
十四の二 酸化プロピレン
十四の三 三酸化二アンチモン
十五 三・三′―ジクロロ―四・四′―ジアミノジフエニルメタン
十五の二 一・二―ジクロロプロパン
十五の三 ジクロロメタン(別名二塩化メチレン)
十五の四 ジメチル―二・二―ジクロロビニルホスフェイト(別名DDVP)
十五の五 一・一―ジメチルヒドラジン
十六 重クロム酸及びその塩
十六の二 ナフタレン
十七 ニツケル化合物(次号に掲げる物を除き、粉状の物に限る。)
十八 ニツケルカルボニル
十九 パラ―ジメチルアミノアゾベンゼン
十九の二 砒ひ素及びその化合物(アルシン及び砒ひ化ガリウムを除く。)
二十 ベータ―プロピオラクトン
二十一 ベンゼン
二十二 マゼンタ
二十二の二 リフラクトリーセラミックファイバー
二十三 第一号から第七号までに掲げる物をその重量の一パーセントを超えて含 
有し、又は第八号に掲げる物をその重量の〇・五パーセントを超えて含有する製 
剤その他の物(合金にあつては、ベリリウムをその重量の三パーセントを超えて 
含有するものに限る。)
二十四 第九号から第二十二号の二までに掲げる物を含有する製剤その他の物 
で、厚生労働省令で定めるもの

ただし、各特別則で適用除外としている作業(省令に定めるもの)は除く
(法原文は物質名が書いていないので管理人が書き換え、意味をたがえない程度に、以下は書きおろしています。)

 オーラミン若しくはマゼンタに掲げる物又は第二十四号に掲げる物でオーラミン若しくはマゼンタに係るものを製造する事業場以外の事業場においてこれらの物を取り扱う業務
 クロム酸及びその塩若しくは重クロム酸及びその塩に掲げる物又は第二十四号に掲げる物でクロム酸及びその塩若しくは重クロム酸及びその塩に係るものを鉱石から製造する事業場以外の事業場においてこれらの物を取り扱う業務
 エチルベンゼン、コバルト及びその無機化合物、酸化プロピレン、三酸化二アンチモン、一・二―ジクロロプロパン、一・二―ジクロロプロパン、ジクロロメタン、ジメチル―二・二―ジクロロビニルホスフェイト、ナフタレン若しくはリフラクトリーセラミックファイバーに掲げる物又は第二十四号に掲げる物でインジウム化合物、エチルベンゼン、コバルト及びその無機化合物、酸化プロピレン、三酸化二アンチモン、一・二―ジクロロプロパン、ジクロロメタン、ジメチル―二・二―ジクロロビニルホスフェイト、ナフタレン若しくはリフラクトリーセラミックファイバーに係るものを製造し、又は取り扱う業務

令別表3、令22条2項及び特別管理物質の比較表を作りましたので参考まで。

 雇い入れ時の特殊健康診断の結果の保存期間は、
     有機溶剤 特化物(特別管理物質は除く) 5年
     特化物(特別管理物質)        30年 となっています。
 近年は有害性の見直しで、保存年数が延長される物質が出ています。
 例えば、過去にベンゼンを取り扱っていた作業者の特殊健診で、毎回貧血で有所見をなる場合、雇い入れ時の健診結果がないと、体質なのか業務性なのか判断がつかない場合があります。
 特化則の健診結果の保存は、昭和50年に第40条が改正されるまでは30年ではありませんでした。だから以前の特殊健診の結果は廃棄していたので確かめようがないのです。
 法で定める保存年数とは関係なく、有害物を取り扱うことになった作業者の雇い入れ時の特殊健康診断結果は、できれば廃棄せずに保管したほうが良いと思います。

濃度基準値とTLV

第1回化学物質管理に係る専門家検討会の資料にあったので、整理します。
TLVについてはこちらを読んでください。

TLV-STELが設定されている物質

・TLV-TWAを超えTLV-STELを下回るばく露については、1回15分を超えず、かつ1労働日につき1時間以上間隔をおいた4回を超えないようにする。
・TLV-TWAを超えないこと

TLV-STELが設定されていない物質

・ごく短時間であってもTLV-TWAの5倍を超えないこと
・TLV-TWAの3倍を超える一時的な増加は、1回15分を超えず、かつ1労働日につき1時間以上間隔をおいた4回を超えないようにする。
・TLV-TWAを超えないこと

TLV-TWAの3倍の根拠

環境濃度が対数正規分布している場合、よく管理されている工程においては、短時間ばく露値の幾何標準偏差は2.0であり、全測定値の5%が幾何平均値の3.13倍を超えることに基づく。(ACGIH 2018.p.5)

TLV-C(Ceiling)について

急性中毒のように即効性の影響がある物質については、如何なる部分においても超えるべきでない値。なので、急性毒性が確認されていない化学物質には設定されていない?

濃度基準値は?

 9月1日の検討会では、ACGIHのTLVと同様、TWAとSTELの2つの基準値を設ける方向です。
 TLVと同じ考えですと、8時間の個人ばく露測定とD測定を併用するのかと思いますが、第2回の検討会で詳細を詰めるようです。

労働安全衛生法第22条との関係

 条文では「事業者は、次(化学物質や物理的要因他)の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない」としています。この対象物質はリスクアセスメント対象物如何に関わらず適用されます。
 ・リスクアセスメント対象物(則577条の2)
 ・リスクアセスメント対象物以外(則577条の3)

 リスクアセスメント対象物は作業環境測定(法65条)対象物を含みます。作業環境測定は管理濃度で評価しますが、同時に濃度基準値でばく露の低減を図らなければなりません。

 リスクアセスメント実施義務の法律は法57条の3なので、法22条の措置はリスクアセスメントの実施に関わらず行う必要があります。

◆ここらへんも今後検討会が進むにつれ、有識者が意見をだし、整理されていくと思います。

アーク溶接作業場の換気装置の設置届

 継続的にアーク溶接を行う屋内作業場には換気装置の設置が義務付けられています。
 では、その換気装置は労働安全衛生規則第86条に従い届出が必要か?

  不要です。

 確かに別表7の18号にはこのように書いてあり、届出が必要と読み取れなくもないです。私もそう読みました。

 これについては、県労働局からこのような趣旨の回答をいただきました。

  • 18号で書かれている全体換気装置は、5条の規定されている密閉設備、局所排気装置、プッシュプル型換気装置を特例許可で設置しない場合に設ける全体換気装置を対象としている。
  • 特化則28条の21で、「・・・第5条の規定にかかわらず、金属アーク溶接等作業において発生するガス、蒸気若しくは粉じんの発散源を密閉する設備・・・を設けることを要しない。」としているので、溶接ヒュームは局所排気装置の設置義務はないので、(上の・に書いた)届出の事案に該当しない。

とのことでした。

金属ヒュームと溶接ヒューム

この記事は、「ガス切断と溶接ヒューム」を整理したものです。
これで前の記事のぐだぐだなところが整理されました。

金属アーク溶接等とは
 被覆アーク溶接、(半)自動溶接(炭酸ガス溶接、MAG溶接、MIG溶接のこと)、TIG溶接、スタッド溶接、プラズマ切断、ガウジングなど、アーク(稲妻みたいなもの)で金属を熔かして溶接や溶断、溝堀する作業です。
 この金属アーク溶接等に該当すると、「溶接ヒューム」として特化則の規制を受け、対応する必要があります。

 金属アーク溶接等に該当しないものは、圧着溶接(金属同士を密着させ通電し接合する。スポット溶接機、シーム溶接、プロジェクション溶接などが該当)、ガス溶接(アセチレン等可燃性ガスを燃焼させ、その熱で接合する)、電気炉等による金属の溶融があります。ここで発生するヒュームを金属ヒュームとします。

 上の図の最後、「対象外」としていますが、あくまで粉じん則の別表に該当しないという意味です。溶接ヒュームのように瞬間的に金属が蒸発する、金属が液体となる温度ではないので、溶接ヒュームや溶融ヒュームとしての対策は不要と考えられます。
 「防じんマスクの選択、使用等について」で金属ヒュームが発生する作業は粒子捕集効率がクラス2以上の防じんマスクを使用すること(別表の表)となっていますので、従う必要があります。

 聞いたところ、あくまで塩基性酸化マンガン(酸化マンガン(MnO)、三酸化二マンガン(Mn2O3))と溶接ヒュームを規制する目的で、研磨やガス切断を特化物で法規制する目的ではないとのことでした。
 前にも書きましたが、こういったことは通達やQ&Aで告知して欲しいですね。所轄の監督署によって判断が異なる場合がありますので、ご注意ください。

局排に係る特例許可(特化則)

 特化則では、局所排気装置の性能要件が制御風速のものと、抑制濃度のものがあります。
 その抑制濃度の場合の設置届と特例許可について説明します。

 フローで書くとこのようになります。
 抑制濃度は「局所排気装置を設置する」→「抑制濃度が定められている場合」へ進みます。
 特例許可は「局所排気装置を設置しない」へ進んだ場合必要になります。
 ご覧のとおり面倒です。
 発散防止抑制装置については、特例許可を申請しても許可が下りない場合があります。この許可、不許可の基準は公表されていませんが、排気が屋内の場合は除ガス装置等出口に警報装置が必要といわれています。

 これだけ骨を折っても、作業環境測定は除外されませんのでご注意ください。

金属の沸点について

当方金属組成の専門家ではないので、学術的にどうなのか問われると答えられませんので質問はご遠慮ください。

自分のなかの、ぼや~としたところをまとめます。

水は沸点まで温度が上がらなくても蒸発します。
では金属はどうなの?

アーク等の温度と金属(一部)の沸点等をまとめてみました。

 温度はwiki先生に聞きました。
 アークの温度は電流、電圧条件で変わるので温度に幅がありますが、空気中に電気を流すのでそれなりの温度になります。アセチレンはガスの最適の燃焼温度が決まってくるので概ねこの温度になります。他の融点、沸点はサイトによって微妙に異なるので「概ね」の温度とお考えください。

 このように、アークとアセチレンの温度はかなり違います。アークは金属などの沸点に比べてかなり温度が高いので、一瞬で金属を沸騰させることができます。ですのでアーク溶接は著しく溶接ヒュームが発散するとして規制がかけられました。ガス切断もヒュームは出ますが、アークほどではないということで溶接ヒュームとはしないようです。

 参考として、別の法令である鉛について書きます。
 上の図で「鉛則で設備規制を分ける温度 450℃」とあります。
 鉛則では、この450℃を境に、鉛粉じんとして、鉛ヒュームとして、設置しなければならない設備の要件を分けています。(このような記述はどこにも書いていませんが、そのように聞いています。)
 鉛の融点は327℃なので、融点より少し高い温度から鉛ヒュームは発生するとし、規制されています。沸点の1749℃と比べるとかなり低い温度です。
 ほかの金属も融点から少し高いところからヒュームが発生するかは言えませんが、沸点に達していなくてもヒュームは発生すると考えてよさそうです。

 ではアセチレンバーナーで金属をあぶり続けると金属はすべて蒸発するか?
 試したことありませんが、おそらくバーナーの噴出力で溶けた鉄が吹き飛ばされてしまい、沸点まで金属の温度を上昇させることは出来ないのではないかと思います。ですが、取鍋で金属を溶解する製鉄所は注意が必要です。
 なお製鉄所でのステンレスの製鉄工程は、マンガンの規制対象となっています。

ガス切断と溶接ヒューム

こちらの記事は誤りが出てきましたので、記事を新たに書き直しました
そちらをご覧ください。

 改正特化則の施行前なので、大分情報が出てきました。
 ですが、重箱の隅をつつくようですが、曖昧なところも出てきました。

 例えば、金属アーク溶接等に該当しないガスやレーザーによる切断はどうするか?

 今までの法解釈を整理すると次のようになります。

金属アーク溶接等とは
 被覆アーク溶接、(半)自動溶接(炭酸ガス溶接、MAG溶接、MIG溶接のこと)、TIG溶接、スタッド溶接、プラズマ切断、ガウジングなど、アーク(稲妻みたいなもの)で金属を熔かして溶接や溶断、溝堀する作業です。
 この金属アーク溶接等に該当すると、「溶接ヒューム」として特化則の規制を受け、対応する必要があります。

 金属アーク溶接等に該当しないものは、圧着溶接(金属同士を密着させ通電し接合する。スポット溶接機、シーム溶接、プロジェクション溶接などが該当)、ガス溶接(アセチレン等可燃性ガスを燃焼させ、その熱で接合する)、電気炉等による金属の溶融があります。

「取り扱いで粉じんが発生*¹」しない*²」「特化則の規制なし*³
 粉じん則では、粉じんが発生する作業が具体的に示されていますが、特化則ではされていません(*1)。粉じん作業に該当する作業は粉じんが発生するといって差し支えないですが、粉じん作業に該当しない刃物(メタルソー、バイト、フライス、エンドミル等)で切削する作業、プレス成型(絞り、打ち抜き)、鍛造については明確に規制外とは言えません。(私見ですが、粉じんが発生しても、まず問題ないレベルだと思います。)(*2)

 特化則では副次的に、非意図的に発生した場合も規制されます。
 マンガンが1%超えて含有する金属をガス切断する場合、溶接ヒュームとして規制はされませんが、ガス燃焼による熱によって、副次的に塩基性酸化マンガン等が発生することが考えられます。
 ではその場合、マンガンとして規制され、作業環境測定等が必要になるのか?
 この件について、労働衛生専門官にお尋ねしたところ、まだそこまで議論されていないから答えられない。とのことでした。ただまあ、アークに比べて著しい発じんがないからガス切断は溶接ヒュームから除外されているので、溶接ヒュームより管理が厳しくなるとは考え難いところはあります。なので、ガス切断は粉じん則の別表3の防じんマスクを付けなければならない作業に該当するので、防じんマスクで対応すればよいのではないかと個人的に考えています。(*3)(のちに厚生労働省より見解がでるかもしれません。)

(R3.2.27追記)
 「マンガンの蒸気、粉じんが発生する作業は取り扱いに該当する。」とQ&Aにありました。つまり、マンガンを含有する金属をガス溶断、レーザー切断及び研磨など金属アーク溶接等作業に該当しない作業は上記のフロー図のとおり、マンガン及びその化合物として規制されるようです。ですので、作業環境測定や特殊健康診断を6ヶ月に1回、定期に実施しなければならない。と労働衛生専門官さんから回答もらいました。
 マンガンを含んだ金属はどのようなものがあるかといいますと、ステンレスが該当します。ステンレスもいろいろあり、そのうちSUS300番台はマンガンを2%以下、ニッケル5%以上含有しています。カトラリーのスプーン、フォークは18-8ステンレスを材料としていますが、これはSUS300番台のステンレスになります。ちなみに18-8の、「18」はクロム、「8」はニッケルの含有率を表しています。
 お恥ずかしい話し、今までステンレス加工の工場で、マンガンの測定の必要性を話してきませんでした。同様に労働衛生専門官さんも臨検に行ってマンガンの測定について指摘(是正勧告)したことがないと話していました。今後はSUS300番台のステンレス研磨作業については、マンガンとニッケルの作業環境測定が必要であるといえます。
 ちなみに、溶接ヒューム内にニッケルも含まれますが、そちらは溶接ヒューム(マンガン)として規制がかかるだけのようです。
 「蒸気、粉じんが発生する取り扱い作業」はどのような作業か、粉じん則の別表1に該当するものを対象として考えてよいか。と尋ねたところ、粉じん則と特化則は別なので、同様に判断してよいとは云えない。とのことでした。

 余談ですが、先ほどの労働衛生専門官さんとの話しで、
「金属を真っ赤になるまで加熱しプレスで押しつぶして加工すると、表面の金属が剥がれるように脱落します。おそらく酸化鉄だと思うんですが、加工する金属にマンガンを含んでいる場合、マンガンの対象になるんでしょうか?またとろける温度でなければヒュームは出ないと考えてよいのでしょうか?」
「あれはなんでしょうね~。酸化鉄ならマンガンではないと考えてよいと思いますが、その剥がれたものを分析しないと、明確に『出てない』とは云えませんね~。温度についてはそこまで議論が進んでいないのでなんとも言えませんね。」とのことでした。

追記(令和3年1月31日 管理人のメモ的なもの)
 コバルトの特化則規制で、当該粉じん等にばく露するおそれがないとして対象外とした作業の一部で、
 「コバルトを含有する合金をプレス成型(打ち抜きを除く)する作業、加熱せずに行う圧延作業」があります。
 裏を返すと、プレスによる打ち抜き、熱間圧延は対象となります。
 特化則は物質が違うと考え方も違うので、マンガンも同様と云う訳ではありませんが、参考まで。

追記(R3.10.23)
 書いたつもりが書いていなかったので、今更追記します。
 今回の法規制は溶接ヒュームを対象に定められています。
 金属ヒュームはガス切断、レーザー切断、グラインダー研磨など溶接ヒュームに該当しない作業についても僅かながらですが発生します。
 では、それらは塩基性酸化マンガンとして対応が必要なのか?
 結論からいうと、「不要」とのことでした。
 これらは従来の粉じん則での対策でよいと、伝手を頼って厚労省化学物質対策室に聞いてもらいました。
 溶接ヒュームは温度が高いため瞬間的に金属が蒸発し、多量の溶接ヒュームが発生します。ですので、この多量に発生する溶接に対して対策を強めた結果となります。