溶接ヒュームに係る法改正のリーフレット

溶接リーフレット

溶接ヒュームに係る法改正について、まとめられたリーフレット(愛知労働局作成)を見つけましたので、貼り付けておきます。
ただし、ぽい。っと渡すのではなく、ちゃんと解説する必要があると思います。

金属アーク溶接等作業に係る措置

5月19日加筆
5月15日加筆
6月19日加筆

特定化学物質障害予防規則及び寛容測定法施行規則の一部を改定する省令(令和2年4月22日厚生労働省令第89号)

令和2年4月22日 省令第89号

化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会
同報告書(全文)(PDF)
パブリックコメント

法改正の官報と、その根拠となった検討会ページ、検討会報告書(全文)及びパブリックコメントです。
詳細は直接読んでいただくとして、一部ピックアップして、簡単に説明します。

(金属アーク溶接等作業に係る措置)
第三十八条の二十一
事業者は、金属をアーク溶接する作業、アークを用いて金属を溶断し、又はガウジングする作業その他の溶接ヒュームを製造し、又は取り扱う作業(以下この条において「金属アーク溶接等作業」という。)を行う屋内作業場については、当該金属アーク溶接等作業に係る溶接ヒュームを減少させるため、全体換気装置による換気の実施又はこれと同等以上の措置を講じなければならない。この場合において、事業者は、第五条の規定にかかわらず、金属アーク溶接等作業において発生するガス、蒸気若しくは粉じんの発散源を密閉する設備、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設けることを要しない。


金属アーク溶接作業の範囲
溶接棒やワイヤにマンガンが含有していなくても、溶接ヒューム内にマンガンが含まれていることから、含有率に関係なく、すべてのアーク溶接、プラズマ溶接が対象になります(ガウジング含む)
この第38条の21で、溶接ヒュームに関して「別表第1 34の2」と触れていないので、34の2に書かれている「1%以下のものを除く」は適用されないと考えるようです。参考までに、検討会報告書内に溶接ヒューム中のマンガンを分析した例がありました。軟鋼系溶接棒を用いた被覆アーク溶接では、2.56~2.77%だそうです。
自動溶接を行う場合、金属アー ク溶接等作業には自動溶接機による溶接中に溶接機のトーチ等に近付く等、溶接ヒュームにばく露するおそれのある作業が含まれ、溶接機のトーチ等から離れた操作盤の作業、溶接作業に付帯する材料の搬入・搬出作業、片付け作業等は含 まれないことを通達で示す予定。
また、屋内外関わらず対象としています。(パブコメより)

法規制が掛からない溶接は、アセチレンガスにより接合するガス溶接はアークの発生熱より低いとされ、溶接ヒュームが出ない(少ない)ことから対象外とされています。
対象になるかどうか不明な溶接は、圧接に該当するスポット溶接、シーム溶接、プロジェクション溶接です。これらは金属同士を押し付けて、そこに電気を通して発生した熱で溶接するものですが、サイト、記事によってはアーク溶接に含まれているものもあれば含まれていないものもあります。よくスポット溶接機でスパッタが飛ぶのを見かけますが、適切な圧力、電圧で行っていればスパッタは発生しないそうです。あのスパッタは接合部の溶けた金属が圧力で飛び出しているので、強度が落ちるそうです。

溶解フェロマンガンヒュームについて補足
フェロマンガンは鉄とマンガンの合金です。溶接や製鉄で発生するヒュームは、酸化マンガン、このフェロマンガンの化合物が多いです。製鉄で鉄の代わりに珪素を含んだシリコマンガンを鋳込むことがありますが、シリコマンガンは溶けて、マンガンはフェロマンガンになり、珪素分は非晶性シリカとして発生しているようです。

局所排気装置等を設けることを要しない。とした件
局所排気装置を設置した作業場であっても、環境改善の効果が顕著に表れていないことから、設置義務を除いたものと考えられます。
溶接を特定の場所で、適切に設計された局所排気装置ならば効果が見込められますが、広い定盤であちこちに移動して溶接するような場合は局所排気装置の設置の費用対効果は低いと思われます。

第2項
事業者は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において、新たな金属アーク溶接等作業の方法を採用しようとするとき、又は当該作業の方法を変更しようとするときは、あらかじめ、厚生労働大臣の定めるところにより、当該金属アーク溶接等作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いて行う測定により、当該作業場について、空気中の溶接ヒュームの濃度を測定しなければならない。

「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場」には、建築中の建物内部等で当該建築工事等に付随する金属アーク溶接等作業であって、同じ場所で繰り返し行われないものは含まれないことを通達で示す予定です。(パブコメより)
つまり、屋内たらしめている構造物がなくなる場合は継続に該当しない。ということになりそうです。普通の建屋内での溶接作業は、たとえ巨大なものであっても対象となりそうです。ただし、建屋がスライドして天井、壁が開放され、クレーンで運搬する船舶の船体ブロックの溶接作業については監督署判断になりそうです。

この第2項の測定は、労働安全衛生法第65条に基づく作業環境測定ではなく、同法第22条に基づく健康障害を防止するための措置に係る測定に該当します。(報告書より)
個人サンプリングによる空気中の溶接ヒュームの濃度の測定の実施者については、法令上の規定は設けませんが、第一種作業環境測定士、作業環境測定機関等の十分な知識及び経験を有する者により実施されるべきであることを通達で示す予定です。(パブコメより)
第65条に基づいて測定を行う場合、個人サンプラーを用いた測定を業務規程に盛り込み、登録証を書き換えた測定機関で、かつ測定士も必要な講習を修了して登録した者でないと実施できない状態です。パブコメでどのような要件の者が実施できるようになるかまだ不明ですが、第65条に基づく前述の測定機関でないと、個人サンプラーを用いた測定は難しいと思われます。現状、そのための講習会もCOVID-19により行われていない状態です。この測定実施の猶予が令和4年3月31日ですが、間に合わないかもしれませんね。(個人の意見)

この一連の溶接ヒュームの測定は、粉じんとしてではなく、マンガン(レスピラブルダスト)を測定します。

第3項
事業者は、前項の規定による空気中の溶接ヒュームの濃度の測定の結果に応じて、換気装置の風量の増加その他必要な措置を講じなければならない。


測定結果に応じて、十分に環境改善措置を検討し、その措置をあらかじめ実施している作業場に、さらなる改善措置を求める趣旨ではない。(報告書より)

第5項
事業者は、金属アーク溶接等作業に労働者を従事させるときは、当該労働者に有効な呼吸用保護具を使用させなければならない。


既に粉じん則の別表3で、溶接作業者については、屋内外問わず、防じんマスクの着用について定められています。

第6項
事業者は、金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場において当該金属アーク溶接等作業に労働者を従事させるときは、厚生労働大臣の定めるところにより、当該作業場についての第二項及び第四項の規定による測定の結果に応じて、当該労働者に有効な呼吸用保護具を使用させなければならない。

第7項
事業者は、前項の呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)を使用させるときは、一年以内ごとに一回、定期に、当該呼吸用保護具が適切に装着されていることを厚生労働大臣の定める方法により確認し、その結果を記録し、これを三年間保存しなければならない。

第6項、第7項の呼吸用保護具については、現在情報収集中です。
選定した呼吸用保護具が面体形の場合は着用の状態を確認することとなっています。その確認方法は定量的フィットテストとしています。ルーズフィット形を選んだ場合は装着性の確認については特に規定されていません。
定量的マスクテストですが、マスクフィッティングテスターを用いてマスクの外と内の粉じん濃度を測定する方法と、サッカリン等甘味を感じる粒子状物質を用いて行う方法があります。マスクフィッティングテスターの方は簡単に計測する方法と、右向いて左向いてなど動作を伴う方法があり、後者をしなければならないとなると、時間とコストが掛かるので、わかり次第加筆します。

また、そもそもですが、
第38条の21 「溶接ヒュームを製造し、」というくだり
パブコメには、労働安全衛生法施行令(昭和 47 年政令 第 318 号)第 21 条等の「製造し、又は取り扱う」特定化学物質には、溶接ヒュー ムの他にも、副次的に生成されるコールタール、五酸化バナジウム等があります。このように、「製造」は、非意図的な生成をも含む趣旨で運用されています。と書いてます。
コールタールは防腐剤として用いられますが、石炭をコークス炉で焼成するときも発生します。そちらはコークス炉の対策として特化則に規定されています。このコークス炉から副次的に発生するコールタールを捕集して、製品にしているならば製造に該当します。別の物質でも副次的に発生したものを捕集精製して使用するならば製造に該当するとした通達が出ています(昭和47年12月23日 基発第799号)。これを踏まえると溶接ヒュームは製造に該当しないと思われます。(溶接ヒュームは「製造」として例外的に取り扱うらしいです)
「製造」とする場合、特化則の第4条の規定が関わってきます。こちらでは密閉式の構造としなければならない。と書いてあります。
38条の21には、「~~この場合において、第5条の規定に関わらず~設けることを要しない」とありますが、第4条まで適用除外を含んでいないことから、第4条について対応が必要になるかもしれません。

<以下、5月19日加筆、修正>
施行令別表第3 34の2 溶接ヒューム
施行令別表のほうは、含有率によるくくりはありません。すべて対象です。
こちらはどのような規制に関わるかは、
施行令第6条 作業主任者を選任すべき作業・・・選任の義務あり
同令第9条の3 法第31条の2の政令で定める設備・・・対象外
同令第17条 製造の許可を受けるべき有害物・・・対象外
同令第18条 名称等を表示すべき危険物及び有害物・・・対象外
同令第18条の2 名称等を通知すべき危険物及び有害物・・・同令別表第9の改正案が出されていないことから、SDS等の通知義務はないと考える
同令第21条 作業環境測定を行うべき作業場・・・マンガンは該当するが、溶接ヒュームは該当しないので、法65条に係る作業環境測定の義務はない
同令第22条 健康診断を行うべき有害な業務・・・溶接ヒュームは除外されないから実施しなければならない。ただし、特化則に別に規定されているので、次のブロックで説明します。

特化則別表第1 34の2 溶接ヒュームを含有する製剤その他の物。ただし、溶接ヒュームの含有率が重量の1%以下のものを除く。
特化則別表第3 62号 溶接ヒューム(これをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務

特化則の方には含有率について触れられています。マンガンの方に含有率が書かれるのはわかるのですが、溶接ヒュームについてはどのように考えればよいのか。
検討会の議事録を読み返しましたが、全く、ほんとにこれっぽっちも触れられていません。この定義がどこから出てきたのか不明です。
前の方に溶接ヒューム内のマンガンは2.56~2.77%と書きましたが、溶接ヒュームはすべて1%超えると判断するのか。そのことを明文化する必要があるのではないかと思います。

6月19日追記
特化則別表第1と3の「重量の1%」の部分ですが、厚生労働省関係者に確認しましたが、マンガンの含有量ではなく、溶接ヒュームそのもののことを指すそうです。まさしく書いてある通りでした。
「実際に溶接ヒュームという製品が出回るということはないと思いますが、、、」とも云っていました。
↑について追記(R3.2.9)
溶接ヒュームの取り扱いは、清掃や集じん機のダスト回収が該当するそうです。

特殊健康診断について(R3.2.9追記)

 「溶接ヒューム」は、上の図のように「マンガン又はその化合物」とは別の号になっていますので、健康診断は別物になります。
 溶接作業者は「溶接ヒューム」の健康診断をすればよく、「マンガン」についてはやる必要がありません。
 しかし、ステンレス(SUS300番台)の場合、ガス切断やグラインダー研磨を行う場合は「マンガン」としての健康診断をする必要があります。
 では、ステンレスを溶接し、そのあとグラインダーで研磨する場合はどうなるか。
 グラインダー研磨が溶接の一環である場合は、「溶接ヒューム」として個人サンプラーによる測定を行っているので「溶接ヒューム」のみやればよいと考えられます。ですが、溶接とは関係なく研磨を行う場合は「マンガン」として行う必要があるかもしれません。この件については私ではなく直接局に聞いたほうがよいと思います。(所轄県労働局の知り合いに聞いたところ、まだそこまで議論できていないそうです。)
 健診項目はほぼ同じですが、結果報告書は別になります。
 その料金ですが、別料金又はセット料金で結果報告書を分けて出す等健康診断機関によって色々なケースが考えられますので、お願いする健診機関と相談しましょう。

局所排気装置の点検表

局所排気装置は年に1回、定期的に点検することになっています。(定期自主検査 労働安全衛生法施行令第15条
実施者は、定期自主検査者の講習を受けた者が望ましいとされていますが、法的に必ず受けた者がやらないといけないわけではないですが、受けておいた方が実施する方としては安心できます。
この講習で指針に示された方法の説明がされますが、これをすべて実施するのは大変です。高所作業や機械的、電気的知識が必要な場合もありますので、できる範囲でよいと思います。できないところは、専門の業者に定期的に依頼することをお奨めします。

さて、では自分でどれだけできるか。ですが、例として下の表を作成しました。

局排点検表(フード別) 局排点検表(系統別)

今まで局所排気装置の定期自主検査をしてきた中で、①安全にできる箇所、②経験がなくても判定できる箇所、③一部チェックリスト化して後の対処がしやすいようにしています。あくまで例なので、これを参考に作成し直してもらえればと思います。

①安全にできる箇所
高所作業になる箇所は安全が確保できないところは、自分でやらないほうがよいでしょう。また、電気的知識は必要なところは感電するおそれがあるので注意しましょう。

②経験がなくても判定できる箇所
点検項目で「テストハンマーで叩いて判断する」があります。叩くことはだれでもできますが、それにより、堆積粉じんの有無やボルトの緩み、鋼板の腐食などの判断は困難です。ですのでこの表では省いています。

③一部チェックリスト化
排風機の点検の箇所は細かく作っています。
ここは電源がカットされていれば、一度やってみればできるところです。また、そこまでチェックできていれば、業者に依頼するにしても、見積もりされやすいと思います。

1枚目 フード毎に作成
風速計でフードの制御風速を測ります。
「新設時」をいれたのは、初期値からどれだけ劣化しているか一目でわかります。
「監督署届出日」というのは、局所排気装置を設置するにあたり、監督署長に届出をしないといけません。していないケースをよく見かけますので、この欄を作りました。

2枚目 ダクト、排風機、空気清浄装置の系統毎に作成
主ダクト、枝ダクト、目視検査時に枝ダクトに番号ふっておくとよいです。
系統図には、主ダクト、枝ダクト、排風機、空気清浄装置を描く他、ダンパー位置や点検口(孔)の場所も記載しましょう。
点検孔での測定値は別の紙に記入し、平均風速と静圧を記入するようにしています。測定値一つひとつ書くなら様式を変更してください。「状態」は点検口(孔)から目視で確認できるなら、内壁の状態など書くとよいでしょう。
排風機、空気清浄装置はよくあるトラブルを元にチェックリスト化してます。
点検口や横のパネルをボルトで開放する場合、パッキンが硬化していて再利用できない場合があるので、予備のパッキンを用意しておいてください。

あくまで例ですので、
みなさんの会社に合った表を作成してみてください。
表のエクセルデータの提供については、今のところ予定していません。

労災保険を利用した二次健康診断

労災保険・・・労働者災害補償保険制度の略
ちなみに、労働保険は、労災保険と雇用保険(失業保険の名称が変わり、雇用保険になりました)の総称です。

二次健康診断は、職場で行う定期健康診断等の結果、
(1)血圧検査
(2)血中脂質検査
(3)血糖検査
(4)腹囲の検査またはBMI(肥満度)の測定
以上の項目のすべてで異常の所見が認められた場合、労災保険を使って二次健康診断を受けることができます。ただし、すでに脳や心臓に疾患が見られる人は対象になりません。また、異常値でなくても、産業医が検査が必要と判断した場合は対象になります。
疾患が見られる場合は、治療が必要なので、労災保険ではなく健康保険で治療を行ってください。

じゃあ、この二次健康診断ってなに?
脳血管と心臓の状態を把握するために必要な検査で、具体的には、次の検査を行います。
(1)空腹時血中脂質検査
(2)空腹時血糖値検査
(3)ヘモグロビンA₁c検査
(4)負荷心電図検査または胸部超音波検査(心エコー検査)のいずれか一方の検査
(5)頸部超音波検査(頸部エコー検査)
(6)微量アルブミン尿検査
これに係る費用がこの労災保険から給付されます。

職場で健康診断を受けて、受けっぱなしではなく、そのまま通常勤務してよいかを判断しなければなりません。
健康診断の個人票に医師の名前と判子が押してありますが、これは安衛則第51条の2の、医師等からの意見聴取に該当しません。現場のことを把握している産業医に判断してもらい、その結果を個人票に記入しましょう。
産業医がいない労働者50人未満の事業場は、産業保健総合支援センターにご相談ください(原則無料)。

昔、健康診断にかかわる仕事をしていたとき、受診した事業場で労災二次健診に該当する人のリストを持って、その事業場担当者に受診勧奨してましたが、

「労災保険使うと、次から掛け金高くなるから使わない」

とよく云われました。
この二次健診に係る給付は、労災保険料額の増減に係るメリット制の対象にならないので、使ったからといって、掛け金があがることはありませんので、利用して、労働者の脳血管、心臓疾患の防止にお役立てください。(令和2年4月に労働局に再確認済み)

吸収缶の繰り返し使用

衛生管理者、有機溶剤作業主任者等、防毒マスクの知識がある方向けの記事です。使用限度を保証するものではありませんので、データを過信せず、早期の交換に心がけてください。

気中有機溶剤濃度が低い作業場で使用している防毒マスクは、繰り返し使用しているのが現状だと思います。
作業場の気中濃度が数ppmで極めて低いという背景もあると思いますが、メーカーでは、破過曲線図の右端の使用時間を超えての使用を推奨していません。
作業強度による呼吸数の増減や瞬間的に高濃度に晒されている可能性、温度、湿度、その他反応ガスなどの様々な要因からです。

では、1週間前に使って、密閉容器などで適切に保管した防毒マスクは使ってよいかどうか。

マスクメーカーである興研さんが発行している「Safety NEWS(2017.7 №702)」にあった記事を紹介します。
(残念ながら、メーカーhpにPDFで保管されていませんでした。お申し出頂きましたら、記事は消去いたします。)

吸収缶に有機溶剤蒸気が吸着するとどのようになるか。

左の図のように、吸収缶の上流(入り口)側に吸着します。これが呼吸によって吸着した有機溶剤の分子が下流側の粒に移っていきます。
この粒にどれだけの時間保持できるかは有機溶剤の種類によって異なります。メタノールとかは極めて早いです。
使わなくても置いておくだけで、右の図のように有機溶剤の分子は拡散していきます。

このグラフは、試験濃度300ppm、使用限度とする破過基準濃度5ppmのガスによるデータです。
100分まで使える吸収缶で、50分使用した後、1日、5日、10日、15日保管した場合の抜けてしまう濃度をプロットしています。
1日、5日保管ならば、同一吸収缶を繰り返し使用しても、100分使用しても破過基準濃度に達していませんので、繰り返し使用に耐えうると判断できます。
一方、10日のものは再使用開始後20時間で、15日のものは既に 破過基準濃度 に達していますので、再使用はできません。

以上より、吸収缶の袋を開けてしまったら、未使用であっても5日に処分するよう心がけてください。

Safety NEWS(2017.7 №702)の一部

労働基準法施行規則第18条第9号の有害な業務

労働時間の延長が2時間を超えてはならない業務として次の業務が挙げられています。

1.多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
2.多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
3.ラジウム放射線、エックス線その他の有害放射線にさらされる業務
4.土石、獣毛等のじんあい又は粉末を著しく飛散する場所における業務
5.異常気圧下における業務
6.削岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務
7.重量物の取扱い等重激な業務
8.ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
9.鉛、水銀、クロム、砒素、黄りん、弗素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準じる有害物の粉じん、蒸気又はガスを発散する場所における業務
10.前各号のほか、厚生労働大臣の指定する業務

この労働時間の延長のほか、衛生管理者のうち少なくとも1人を専任としなければならない、または衛生工学衛生管理者から衛生管理者を選任しなければいけない業務にも該当します。
この業務のうち、9号について詳しく説明します。

9号の具体的な解釈として、
鉛中毒予防規則第1条第5号の鉛業務 四アルキル鉛も含む
クロムメッキに係る業務
有機溶剤中毒予防規則に係る業務
地下駐車場内における業務   があります。

労基則18条解説(労働基準法(上)労務行政研究所発行)
(労働基準法(上)労務行政研究所発行)

この通達(昭和43年7月24日 基発第472号、昭和46年3月18日 基発第223号)が見当たらないことと、この書籍が絶版なので、これ以上のことはわかりません。
この解釈では、特定化学物質については特に述べられていませんが、有機溶剤中毒予防規則の業務はそのまま準用されていますので、同様に特化物も同じ扱いにしておいたほうがよさそうです。

局所排気装置があれば、防毒マスクはつけなくてもよい?

有機溶剤を用いる塗装ブースを想定しています。

法的に「防毒マスクをしなくてもよい」と云える場合は、有機溶剤中毒予防規則の第2条や第3条に該当する場合のみです。

着用しなければならない場合は、同則第32条、第33条に該当する業務です。
この2条に該当しなければ、マスクをしなくてもよいとは言い切れません。

労働安全衛生規則の第593条には、「事業者は、有害な業務には保護具を備えなければならない」としています。
同時に第597条には、「労働者は、事業者から必要な保護具の使用を命じられたときは、使用しなければならない」としています。

事業者の判断ですが、客観的に行うため、化学物質のリスクアセスメントを実施して、マスクの着用の必要性を検討することが望まれます。

このリスクアセスメントですが、塗装ブースの能力、被塗装物の形状、作業姿勢、塗料ミストの跳ね返りなど、様々な状況を想定して実施してください。

(4月7日追記)
因みに
定年退職した元労働基準監督官に聞いてみたところ、
「局所排気装置が適切に稼働しているならば、防毒マスクはしなくてもよい」という認識とのことでした。
法令で見ると、前に書いたとおりですが、そこまでガチガチではないようです。

塩基性酸化マンガンと溶接ヒュームが特化物として規制されます

5月19日一部ブロックを別記事へ
5月14日加筆
5月13日加筆

溶接ヒュームに係る最新の法改正についてはこちらをご覧ください。

化学物質による労働者の健康障害防止措置に係る検討会報告書

詳細は、上記の厚生労働省のリンクを参照してください。

概略を話しますと、
・今まで対象外であった、マンガン化合物のうち塩基性酸化マンガンが、対象となります。
・塩基性酸化マンガンは、溶接ヒュームと※溶解フェロマンガンヒュームに含まれています。
 ※溶解フェロマンガンヒューム・・・製鋼工程でフェロマンガンを添加しますが、その時に発生するヒュームのこと

溶接ヒュームに係る法改正

今までアーク溶接に関しては、
粉じん則では、防じんマスクの着用について。
じん肺法では、健康診断と事後措置について規定されていました。
今度は特定化学物質障害防止規則が加わります。

特定化学物質の分類は管理第2類物質となります。
溶接ヒュームで肺がんになる場合、粉じんが原因か、マンガンが原因か明確に区別でいないことから、発がん性があるにもかかわらず、特別管理物質にはなっていません。

第2類物質ですが、局所排気装置等の設置義務がないことと併せて、定期に作業環境測定を実施する義務はありません。ただし、全体換気装置による気中濃度低減対策は必要です。
全体換気装置等による気中濃度低減効果を確認するために、個人サンプラーを用いた気中濃度測定が必要になります。

それと同時に、必要な呼吸用保護具を選定します。

特殊健康診断は、今までじん肺健診だけでしたが、特化則として、マンガンの項目が追加されます。
頻度は6か月に1回です(特化則第39条)

項目(別表第3より)
・業務経験の有無
・せき、たん、仮面様顔貌(表情が乏しくなること)、膏顔(こうがん 脂ぎった皮膚の様子)、流涎、発汗異常、手指の振戦(しんせん 震え)、書字拙劣、歩行障害、不随意性運動障害、発語異常等のパーキンソン症候群様症状の既往歴の有無の検査
・握力の検査

精密検査になると、胸部X線撮影や、尿中又は血中マンガン量の測定などが加わります。

溶解フェロマンガンヒュームに係る法改正

溶接ヒュームは作業環境測定の義務はありませんが、溶解フェロマンガンヒュームは測定が必要です。
こちらは溶接ヒュームとしてではなく、マンガン及びその化合物に該当します。製鋼時に鋳込むフェロマンガンが60~80%マンガンが含有していますので、その取扱いは対象になります。さらに取鍋内の溶融金属内のマンガン含有率が1%超えていれば、そちらも対象になります。
測定方法は従来の作業環境測定と同じ方法になります。
特殊健康診断等は、溶接ヒュームと同じです。
<このブロックは、パブリックコメントを見て加筆しました。5月13日>

施行期日

令和3年4月1日(予定)
ですが、金属溶接ヒュームの測定や作業主任者については1年の猶予期間を設けるようです。
マンガンの作業環境測定については、猶予期間はないようです。

詳細が分かりましたら、随時更新(加筆)いたします。

防じん機能付き防毒マスクについて

ここでは、防毒マスクに取り付けることができる、ろ過材(フィルター)の話をします。

なぜ、防毒マスクに防じんマスクの機能を持たせる必要があるか。
有害なガスや蒸気の雰囲気下で、かつ有害な粒子状物質も飛散している環境の場合、その両方に対応できる呼吸用保護具が必要になります。

そのことについては、通達(防毒マスクの選択、使用等について)が出ています。
その中の一部です。

ガス又は蒸気状の有害物質が粉じん等と混在している作業環境中では、粉じん等を捕集する防じん機能を有する防毒マスクを選択すること。その際、次の事項について留意すること。(以下略)

では、その防じんマスクはどのようなレベルのものを用意しなければならないか。
これまた通達 (防じんマスクの選択、使用等について) があります。
抜粋すると、、、

(2) 労働安全衛生規則(以下「安衛則」)第592条の5、鉛中毒予防規則(以下「鉛則」)第58条、特定化学物質等障害予防規則(現在では、「等」が取れてます。以下「特化則」)第43条、電離放射線障害防止規則(以下「電離則」)第38条及び粉じん障害防止規則(以下「粉じん則」)第27条のほか労働安全衛生法令に定める呼吸用保護具のうち防じんマスクについては、粉じん等の種類及び作業内容に応じ、別紙の表に示す防じんマスクの規格第1条第3項に定める性能を有するものであること。

別紙の表

粉じん等の種類及び作業内容 防じんマスクの性能の区分
〇安衛則第592条の5
作業廃棄物の焼却施設に係る作業で、ダイオキシン類の粉じんのばく露のおそれのある作業において使用するマスク
 
・オイルミスト等が混在しない場合 RS3、RL3
・オイルミスト等が混在する場合 RL3
〇電離則第38条
放射性物質がこぼれたとき等による汚染のおそれがある区域内の作業又は緊急作業において使用する防じんマスク
 
・オイルミスト等が混在しない場合 RS3、RL3
・オイルミスト等が混在する場合 RL3
〇鉛則第58条、特化則第43条及び粉じん則第27条金属のヒューム(溶接ヒュームを含む)を発散する場所における作業において使用する防じんマスク  
・オイルミスト等が混在しない場合 RS2,RS3,DS2,DS3
RL2,RL3,DL2,DL3
・オイルミスト等が混在する場合 RL2,RL3,DL2,DL3
〇鉛則第58条及び特化則第43条  
管理濃度が0.1㎎/m₃以下の物質の粉じんを飛散する場所における作業において使用する防じんマスク  
・オイルミスト等が混在しない場合 RS2,RS3,DS2,DS3
RL2,RL3,DL2,DL3
・オイルミスト等が混在する場合 RL2,RL3,DL2,DL3
〇上記以外の粉じん作業  
・オイルミスト等が混在しない場合 RS1,RS2,RS3,DS1,DS2,DS3
RL1,RL2,RL3,DL1,DL2,DL3
・オイルミスト等が混在する場合 RL1,RL2,RL3,DL1,DL2,DL3

上の表は、法令から転記しましたが、シゲマツさんのHPで出ているものの方が見やすいです。
数字はフィルターの捕集効率を表しており、1~3の3区分で3が最も細かい粉じんも捕集できます。ただし、吸気抵抗も大きくなります。つまり、隙間があるとそこから吸入しやすい。
LとSは試験粒子の性状。Lは液体粒子、Sは固体粒子。
RとDはマスクの形状。Rは取替式、Dは使い捨て式。

有害性の高い粒子ほど、数字が大きく、取替式になります。

この表には、RS1~3とありますが、取替式防じんマスク及び防毒マスクに取り付けられるろ過材はすべてRL1~3です。
逆に使い捨て式防じんマスクは、DS1~2までで、DS3やDL1~3はありません。あくまで、規格だけの表で、製品があるわけではありません。
オイルミストのある環境では、使い捨て式マスクを使っていると捕集効率が落ちてきません。つまり、小さい粉じんはおろか、大きい粉じんもマスクを通過してきてしまいます。まったく使えないわけではありませんが、こまめに交換するようにしましょう。

塗装作業の場合はどうなるか。
特にエチルベンゼンなどが塗料に含んでいる場合です。
先ほどの防毒マスクの通達では、

(10) 防じんマスクの使用が義務付けられている業務であって防毒マスクの使用が必要な場合には、防じん機能を有する防毒マスクを使用させること。
 また、吹付け塗装作業等のように、防じんマスクの使用の義務付けがない業務であっても、有機溶剤の蒸気と塗料の粒子等の粉じんとが混在している場合については、同様に、防じん機能を有する防毒マスクを使用させること。

となってます。
〇有機溶剤にエチルベンゼンが含まれている場合
エチルベンゼンは塗料ミスト又は蒸気として気中に発散します。塗料の樹脂粉じんにくっついていますので、上の表の「上記以外の粉じん作業」に該当します。
〇クロム酸鉛を含む塗料の場合
クロム酸が6価クロムなら対策が必要です。クロム酸の管理濃度は0.05㎎/m₃なので、捕集効率の区分1のろ過材は使えません。

こういったマスクの情報は、インターネットを探せば出てきますが、最近のメーカーさんのカタログは詳しく、見やすく作られています。
取り寄せて、手元に置いておくとよいです。

防じんマスクについて

どのようなものが必要かは保護具カタログなどに書いてありますが、カタログに書いていない、または書いてあっても分かりにくいことを書きます。
(防毒マスク、防じん機能付き防毒マスクについては別記事にする予定です)

吸入による障害が考えられる鉱物性粉じんは、肺に入らないようにすればよいのですが、消化器に入って消化され、身体に蓄積し、障害がでる特定化学物質は 、吸引しないことはもちろんですが、口に入らないことも考慮しないといけません。

労働安全衛生総合研究所HPより

こまめにフィットチェックするのは当然ですが、会話をする場合、マスクを着用しているとなかなか聞き取り難いです。
ついついマスクを無造作にずらしてしまいますが、マスクをずらすと、徐々にマスクの密着性が悪くなることを留意しましょう。また、あごなどに有害物質が付着していた場合、マスクの内側に有害物質が付着して口に入る可能性があります。

マスクをずらさずに会話できるように、伝声器があるとよいです。

シゲマツさんの防じんマスク (防じんマスク DR80のリンク

私が使っているマスクの紹介
3MのQLシリーズです

3M取替え式防じんマスク(防毒マスク兼面体) 6500QL/2091-RL3L

本体とろ過材、それとろ過材のカバーです。

付けるとこうなります。向かって右側はカバーを付けていない状態です。

カバーを付けるとこうなります。
カバーはろ過材についた有害物質が手や衣類に触れることにより、付着または有害物の脱落を防止するためです。
普通の粉じん作業なら、カバーは必要ないでしょう。ですが、有害物、特に有害性の高いものにはろ過材がむき出しでないほうが、私は安心です。

また、このQLシリーズはクイックラッチ(youtube動画)ができます。
伝声器があればいいのですが、このクイックラッチを使えば片手でマスクを開け、元通り着用することができるので、ゆるみが少ないです。

あと、鼻のところがスリムに作られているので、眼鏡の鼻当てにあたりません。

でも、3Mさんのはお高いのが玉に瑕・・・