密閉装置の排気について(鉛関係)

先の粉じんや有機溶剤等と違います。
これらは局所排気装置等に該当するならば屋外に排気しなければいけない。と云っています。
鉛中毒予防規則(以下、鉛則)は局所排気装置等のほかに、ろ過集じん方式の集じん装置(ろ布式集じん装置)についても規制しています。

「局所排気装置についている集じん機となにが違うの?
鉛則では、局所排気装置についている集じん機を「ろ布式除じん装置」、鉛の生産設備の一環として備えられている集じん機を「ろ布式集じん装置」と区別しています。(昭和42年3月31日 基発第442号 当時は第21条だったので、21条関係に書いてあります)

設備の一環?
粉じんで書いた、密閉装置内を負圧にするためにある設備が該当します。
他の例として、空気を配管に流して、その力を利用して粒子状物質を搬送するルーツブロア、ターボブロアも該当します。

このように、貯蔵タンクに入っている鉛の粉をファンの吸引力を用いて開口部から空気を吸い込み、その空気と貯蔵タンクから落ちてきた鉛の粉もろ共計量ホッパーに搬送し、計量ホッパー→集じん機→ファン→排気口へと空気は出てきます。
目的は「搬送」になるのと、鉛則で除じん装置の設置が義務付けられている作業ではないので、局所排気装置に該当しません。( 昭和42年3月31日 基発第442号)
ですが、鉛則ではこの排気口を屋外に設けることを規定しています。

(ろ過集じん方式の集じん装置)
第二十二条  事業者は、粉状の鉛等又は焼結鉱等に係るろ過集じん方式の集じん装置(ろ過除じん方式の除じん装置を含む。)については、次の措置を講じなければならない。ただし、作業場から隔離された場所で労働者が常時立ち入る必要がないところに設けるものについては、この限りでない。
  一  ろ材に覆(おお)いを設けること。
  二  排気口は、屋外に設けること。
  三  ろ材に付着した粉状の鉛等又は焼結鉱等を覆(おお)いをしたまま払い落とすための設備を設けること。

屋内排気でもよい理由を探すより、屋外に排気することを考えるようにしましょう。

密閉装置の排気について(有機溶剤、特化物関係)

前に粉じん関係について書きましたが、基本的な考え方は同じです。
ですが、蒸気やガスになる有害物については注意が必要です。

有機溶剤の場合

法的に、密閉装置とは?といった説明がありません。
参考までに、「有機溶剤作業主任者テキスト」には、「密閉構造というのは、多少内部が加圧状態になっても有機溶剤上記が外に漏れ出さない構造をいう。」とあります。このような構造が望まれます。

密閉した状態ならばよいですが、密閉装置を開放する場合は、送気マスク又は防毒マスクの着用が義務になります(有機則第33条第1項第7号)。
ですが、よくある洗浄溶剤などが入っているちょっとした容器にある蓋を開ける場合は、密閉装置を開放するというよりも、その後何をするかによって、局所排気装置を設置したほうが良い場合があるので注意してください。

ある自動洗浄機能を持つ印刷機で、囲いがされて密閉状態と判断される装置があるとします。ですが、床付近に隙間があり有機溶剤蒸気が漏洩してくるケースがあります。

また、密閉装置に排気装置がある場合、この排気装置は局所排気装置に該当しないので屋内排気でも法的に問題ないことになります。
本来、その密閉設備を設置する際には、所轄監督署に設置届を出さないといけません。その設置届には、密閉設備の場合、密閉の方式及び当該設備の主要部分の構造の概要を記載しないといけません。
その内容を、所轄監督署が精査してくれていればいいのですが、有機溶剤蒸気がだだもれの設備も見受けられます。

法律で問題なくても、労働衛生上、きちんと屋外に排気することが望まれます。
あからさまに有機溶剤蒸気が排気されている場合、
「密閉設備だから、負圧に保つために排気しているものは局所排気装置に該当しないので、屋内排気でも問題ない」と主張しても、有機則第13条の2に基づき特例許可を受けなさい。と云われる可能性があります。

第十三条の二 事業者は、第五条の規定にかかわらず、次条第一項の発散防止抑制措置(有機溶剤の蒸気の発散を防止し、又は抑制する設備又は装置を設置することその他の措置をいう。以下この条及び次条において同じ。)に係る許可を受けるために同項に規定する有機溶剤の濃度の測定を行うときは、次の措置を講じた上で、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備、局所排気装置及びプッシュプル型換気装置を設けないことができる。

この法律は「所定の性能を有する発散防止抑制装置を付ければ密閉装置、局所排気装置などを付けなくていいですよ。だけど、監督署長の許可をもらってね。」というもの。
所定の性能は、屋内排気しても安全であることが求められています。活性炭カートリッジなどで、排気空気に含まれている有機溶剤蒸気を除去するうえに、活性炭フィルターが飽和して、有機溶剤蒸気が室内に出てきたら、警報などで知らせる装置がなければいけないとしています。
めんどくさいです。そういった装置をメーカーから購入するのが近道です。

特化則の場合

有機溶剤とほぼ同じです。
同じような法律(特化則第6条の2)があります。

第六条の二 事業者は、第四条第三項及び第五条第一項の規定にかかわらず、次条第一項の発散防止抑制 措置(第二類物質のガス、蒸気又は粉じんの発散を防止し、又は抑制する設備又は装置を設置することその他の措置をいう。以下この条及び次条において同じ。)に係る許可を受けるために同項に規定する第二類物質のガス、蒸気又は粉じんの濃度の測定を行うときは、次の措置を講じた上で、第二類物質のガス、蒸気又は粉じんの発散源を密閉する設備、局所排気装置及びプッシュプル型換気装置を設けないことができる。

コバルトを含有する合金の研磨を行う湿式研磨装置は、オイルミストが発生するので、密閉設備になっているケースが多いと思います。その密閉装置にはオイルミストコレクターで加工時に発生するオイルミストを捕集し、排気はそのまま屋内に出しています。
密閉設備なら内部を負圧に保つ装置として捉えられると思いますが、研磨部が開放されている装置については、上の特化則第6条の2の許可が必要になるおそれがありますので、注意してください。

密閉装置の排気について(粉じん関係)

粉じん障害防止規則には、特定粉じん発生源には、次の措置を講じなければならないとしています。(粉じん則第4条)

  • 湿潤な状態に保つための設備を設置すること
  • 密閉する設備を設置すること
  • 局所排気装置を設置すること
  • プッシュプル型換気装置を設置すること

特定粉じん発生源とは
粉じん作業に係る粉じん発生源のうち、作業工程、作業の態様、粉じん発生の態様等からみて一定の発生源対策を講ずる必要があり、かつ、有効な発生源対策が可能であるものであり、具体的には屋内又は坑内において固定した機械又は設備を使用して行う粉じん作業に係る発生源が原則といて列挙されたもの。
(昭和54年7月26日 基発第382号)

このコラムは、2番目の「密閉する設備」について書きます。

ここで云う密閉設備は、
解釈では、
「粉じんが作業場内に飛散しないようにその発生源を密閉することができる設備」をいいます。
望まれることとして、「粉じんの漏れをなくすため、内部の空気を吸引して負圧にしておくこと」としています。
これはつまり、密閉していても漏れることを想定しています。発生源を囲って、開口部をなくせば『密閉設備』と称することができます。
(昭和54年7月26日 基発第382号)
(平成10年3月25日 基発第128号)

グローブボックス型の囲いがあり、サイトガラスもあり、手を入れるところもグローブの裾で密閉されていれば、密閉設備になります。
しかしグローブが破れて、手を入れるところに隙間が空いていれば密閉設備に該当しません。
仮にそのグローブボックス内でブラストするとすると、排気装置を付けてグローブボックス内を吸引し、手を入れるところの吸い込み気流が1.0m/s必要になります。

「粉じんの漏れをなくすため、内部の空気を吸引して負圧にしておくこと」と先に書きましたが、この内部を吸引して負圧に保つ設備は局所排気装置などに該当しません。
例を出しますと、上の写真↑のショットブラストですが、箱の後ろにサイクロンのようなものがありますが、これはボックス内にたまったメディアを再利用するために吸い出す目的です。その結果ボックス内は負圧になります。
局所排気装置に該当しないので、集塵機の排気口を屋外に設ける必要がなくなります。(粉じん則第11条第1項第4号)
このことは、厚労省の労働局に問い合わせて確認しました。
ただし、労働衛生的には屋外に排気したほうが望ましいです。

グローブボックスの手袋が破れてそのままの事業場もありますが、設備届出の要件と合わなくなるので、新しい手袋にしてください。
新しい手袋にしないならば、手を入れるところの吸引風速を1.0m/s(ショットブラストの場合)出さないといけないので、そちらのほうが設備投資にお金かかりますよ。

設備届出
労働安全衛生法第88条
労働安全衛生規則別表第7(ショットブラストの届け出は23号です)

別のケースで、長尺の被研磨物を、自動送りでブラストする設備があるとします。長尺のものが入る開口部と出る開口部があると、これは密閉設備に該当しません。
この両開口部の吸引気流が1.0m/sあるように、集じん機を設置する必要があります。この集じん機の排気は屋外に設置しなければいけません。

お持ちの設備を再確認しましょう。

年間安全衛生管理計画表とは

「なにそれ?」と思う方もいらっしゃるかと。
作成に係る法的義務は、所轄の監督署長から「安全衛生管理指定特別指導事業場」にしていされない限りありませんが、安全衛生に関して決めておかなければならないことを記載することになるので、年度初めに作成することをお奨めします。

安全衛生管理指定特別指導事業場
略して、安特、衛特と呼ばれています。
都道府県労働局は、労働災害について特別な指導を必要と判断される事業場を指定し、安全衛生改善計画の作成を指示します。【安全衛生改善計画の作成の指示(安衛法第78条)】

なに書けばよいかわからず、作成していない事業場さんもあります。
こちらを参考してください。

     年間安全衛生管理計画書の作成の手引き(青森労働局)

他の労働局さんにもこのようなページがありますが、青森さんのは業種別に作成されていることと、達成目標も盛り込まれているので、労働安全衛生マネジメントシステムを運用しているところは参考にしてください。

安全衛生年間計画

溶接ヒューム内のマンガン(速報)

16日に
「マンガン及びその化合物並びに溶接ヒュームに係る健康障害防止措置の検討について」の検討会(資料)がありました。
議事録はまだですが、傍聴したところ、ほぼ決定なのでお知らせします。

「塩基性酸化マンガンは除く」が外れます

海外ではもともと、塩基性酸化マンガンも規制対象です。日本は今まで除外されていましたが、塩基性酸化マンガンも他のマンガン(両性、酸性酸化マンガン)と同様に神経機能障害がみられることから、すべてが対象となります。

「溶接ヒューム」として、新たに特化物に加わります

他のマンガン取り扱いとは差別化して、溶接作業を規制する意味で、別の特化物となります(管理第2類)。
溶接ヒュームの中にマンガンが含まれていますが、今までは粉じん則として管理されてきましたが、発がん性を考慮した管理が始まります。
溶接によるじん肺と、マンガンによる肺がんとで、区別が出来ないことから、「特別管理物質」としての管理はされません。
特別管理物質になると、健康診断や環境測定及び作業記録の保存年数が30年になってしまいます。

作業環境測定はしなくてよい

定期的の作業環境測定は義務化しない方向のようです。
ですが、個人サンプラーを用いた作業環境測定を行って、保護具を決定する必要があるようです。
まだ、個人サンプラーを用いた作業環境測定については、パブリックコメントで意見を聞いているところです(ほぼ内容は決定してますが)。
この測定の施行に合わせると思います。
溶接ヒュームは熱上昇を伴うので、普通の作業環境測定だと過小評価してしまうので個人サンプラーを用いた方法を採用するようです。

溶解フェロマンガンヒューム(製鉄業)も溶接と同じようにマンガンにばく露してしまいますが、こちらも「溶接ヒューム」としての管理に含まれるのかは議事録で確認しないとちょっとわかりません。

議事録が発表されたら、また続報します。

特別有機溶剤の表示類

特別有機溶剤とは、もともと有機溶剤予防規則(以下、有機則)で規定されていましたが、がん、皮膚炎、神経障害などの有害性が認められたため、特定化学物質障害防止規則(以下、特化則)に移った物質です。

  • エチルベンゼン
  • 1,2-ジクロロプロパン
  • クロロホルム
  • 四塩化炭素
  • 1,4-ジオキサン
  • 1,2-ジクロロエタン
  • ジクロロメタン
  • スチレン
  • 1,1.2,2-テトラクロロエタン
  • テトラクロロエチレン
  • トリクロロエチレン
  • メチルイソブチルケトン

これらは、特化則で規定されるほか、物性が似ていることから、一部有機則の規制も受けます。
分かりにくいところですと、標識関係です。
一覧を作成しました。

(別ファイルで開く)
特化則になっても、有機溶剤の第1種有機溶剤、第2種有機溶剤の種別は定められています。
その色分けと種別が書いてある表示と、注意事項、物質毎に必要な名称表示、そして有機溶剤作業主任者技能講習修了者から特定化学物質作業主任者を選任し、職務と主任者の名称を掲示します。
参考になれば。

【814-38】有機溶剤標識 第一種有機溶剤等

【814-39】有機溶剤標識 第二種有機溶剤等

ユニット 有機溶剤関係標識 450×1500mm 324-05B

局所排気装置等の排気の能力(定期自主検査)

有機則、特化則、鉛則などの法令で、局所排気装置等の定期自主検査の実施が定められています。
その項目に、「吸気及び排気の能力」があります。
これは、吸引していることを確認するのではなく、法で定める能力(制御風速又は抑制濃度)が維持できているか確認することが必要です。

制御風速の測定

必要な道具:発煙管(スモークテスター)、メジャー、熱線式風速計
 風速計は他に、プロペラの回転数で測るもの(ベーン式)もありますが、測定範囲が0.2m/sからなので適しません。

囲い式フードの場合

フードの開口面で吸引気流を風速計で測定し、その最小風速が法令で定める風速以上あるか。有機則の場合、0.4m/s以上です。

外付け式フードの場合

フードより一番遠い発生源から、フードに向かう風速の最小風速が法令で定める風速以上あるか。有機則の場合、側方吸引(横向きに吸い込まれる)で0.5m/s以上です。
外付け式フードは横風の影響を受けやすいので、、上の測定と併せて、排気性能の管理のため、フードの開口面で測定しておくことをお奨めします。

レシーバー式フードの場合

回転体により随伴気流が発生する場合、または有害物の飛散・拡散方向が決まっている場合は、受け止める方向にあるフードの開口面で風速を測ります。
定める能力は形状によってことなるので、ここでは両頭グラインダーの測定箇所を例にだして、詳細は割愛します。

抑制濃度の測定

抑制濃度は、制御風速とは違い、吸引気流で管理するのではなく、フードから漏洩する有害物質の濃度が抑制濃度以下で管理する手法です。

フードへの吸引気流が生じていることが条件ですが、漏洩してくる有害物の濃度が抑制濃度より低ければ、制御風速より小さい風速で管理してもよいという制度です。
ある意味、理屈にあった規則と云えます。
しかし、抑制濃度を測るには、測定機関に依頼しないと出来ないという欠点があります。
では、毎回年に1回の定期自主検査時には業者を呼んで抑制濃度を測定しなければいけないかと云う訳ではありません。
告示に、
「(略)局所排気装置の性能が確保されている場合の測定位置における制御風速をあらかじめ測定により明らかにしておき、 検査の場合、風速を測定し、前記風速と比較することにより局所排気装置の性能の有無を検査しても差し支えない。」としている。 (昭和47年9月18日 基発第591号

この時の風速ですが、最低限の気流については触れられていません。
ですが、吸引気流が正しくフード方向に向かっており、かつ横風等妨害気流がないことに留意してください。

はんだ付け作業の範囲(鉛則)

はんだ付けとは、はんだによって金属を継ぎ合わすこと。
Wikipediaより

手作業では、線はんだをこてで溶かし、プリント基板と電子回路部品を付ける作業です。
しかし、自動になると、はんだ槽の溶けたはんだを噴流させ、盛り上がった溶融はんだとその上を通るプリント基板の裏面(下の面)を触れさせ、電子回路部品をはんだ付けするという工程になります(フロー方式)。

はんだ付けではあるけど、はんだ槽ではんだを溶かすということで、鉛ライニングになるのでは?

鉛ライニングは、鉛の被膜を成形する。または鉛コーティングが目的なので、はんだ槽でプリント基板に塗布する様な工程であっても、目的は電子回路部品の接合なので、鉛ライニングにはならないらしいです。
同様に、鉛噴流装置でプリント基板に付けたはんだ部分を溶かし、電子回路部品を取り外す作業も、はんだ作業の一環と判断してもよいようです。

↑の判断ですが、別フロアではんだ付けしたプリント基板の修正で、別部屋にもってきて鉛噴流装置をもちいて電子回路部品を取り外す作業の作業環境測定は必要か問い合わせたところ、不要との回答をもらいました。
部屋が違っていても、プリント基板のはんだ付けの一環と判断されるようです。

線はんだではなく、棒はんだをアセチレンバーナーで溶かすロウ付けという作業があります。
こちらは同じ作業でも、コーティング目的と接着目的とで、前者は鉛ライニング、後者ははんだ付けと判断されるようです。

鉛ライニングは、法的に局所排気装置又はプッシュプル型換気装置の設置が義務(鉛則第11条)になりますが、はんだ付けは、局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置の設置が義務になります。裏を返せば、おなじロウ付け作業でも後者は全体換気装置で問題ないことになります。
ですが、労働衛生的には、ロウ付けによるはんだ付けでも、局所排気装置の設置が望まれます。

はんだ付け作業場に全体換気装置を設置する場合は、法的に、必要な能力が定められています。

全体換気装置の必要能力 (m/時間 )の計算
例 はんだ付け作業者 2名
  はんだ付け作業者を含めた在室している全作業者 5名

   はんだ付け作業者2名×100m/時間/名 =200m/時間
   全作業者    5名× 30m/時間/名 =150m/時間

上のほうが下より大きい場合、上の数字以上の能力を。
下の人数が7名だと、下は210m/時間になり、210m/時間を超える能力にしなければならないとしている(昭和42年3月31日 基発第442号)。

自分の会社が大丈夫なのか、計算してみましょう♪

許容濃度、TLV-TWA、ceiling

 許容濃度については、にも書きましたが、日本産業衛生学会が勧告しているもので、労働者が 1 日 8 時間、1週間40時間程度、肉体的に激しくない労働強度で有害物質にばく露される場合に、当該有害物質の平均ばく露濃度がこの数値以下であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響が見られないと判断される濃度です。
 他に、 作業中のどの時間をとってもばく露濃度がこの数値以下であれば、ほとんどすべての労働者に健康上の悪い影響が見られないと判断される濃度として、最大許容濃度があります。

TLV(Threshold Limit Value)は、米国産業衛生専門家会議(ACGIH)での言い方で、許容限界値といった意味。

産業衛生学会より、ACGIHの物質数のほうが多い。なので、リスクアセスメントのアクションレベルで許容濃度を使う場合、産業衛生学会で許容濃度が勧告されていなかったら、ACGIHのTLVを参考にすると良いです。

ACGIHでは、
TLV-TWA (Time-Weighted Average) : 通常1日8時間及び1週間に40時間の労働時間に対する時間荷重平均濃度(日本でいう許容濃度)
TLV-STEL( Short-Term Exposure Limit ): 15分間の短時間ばく露限界。 たとえ8時間のばく露測定濃度(時間荷重平均濃度) がTLV-TWA 内にあっても、1日の作業のどの時間においても超えてはならない濃度。
TLV-ceiling: 作業中のばく露のいかなる時でも超えてはならない濃度である上限値 (日本でいう最大許容濃度)

TLV-STELは、8時間の個人ばく露測定をしない代わりに、15分の測定を行うという目的ではなく、8時間の作業中に、TLV-STELを超える値にならないか、要所要所で確認する目的で使います。
ですので、8時間ばく露測定の補完として行うことが正しい。

TLV-ceilingは、いかなる時でも、たとえ瞬間的にでも超えてはならない濃度で、TLV-STELのように15分間測定した値が使えるわけではありません。海外の文献みますと、半導体や光イオン(PI)検出器等の簡易測定器のログデータをみる手法のようです。

これからの測定

いままでは、作業環境管理の一環として、作業環境測定が行われてきました。
ですが、リスクアセスメントで管理濃度の定められていない物質の作業環境測定を選択する場合があると思います。

管理濃度は、前述の許容濃度と同じ値のものが多いですが、技術的に管理できる濃度を設定するという前提があります。
つまり、管理濃度は、法律で作業環境測定を行わなければならない物質にのみ定められています。作業環境測定結果は、作業環境評価基準に従って、第一管理区分、第二管理区分、第三管理区分に評価され、第三管理区分になった場合、事業主は作業環境の改善を講じなければなりません。この改善を行わなかった場合、労働基準監督署の臨検で指摘されると是正勧告がでます。悪質な場合は行政処分もありえます。管理濃度は、作業環境の良否を法的に線引きするために定められています。

この作業環境測定は、A測定とB測定で評価されますが、個人ばく露の場合、8時間の個人ばく露濃度測定の結果をC測定、TLV-STELに該当する15分間の測定をD測定と称して作業環境を評価する方向にあるそうです。

といっても、個人ばく露測定に適した作業形態であるかの見極めが必要なので、実施する場合は作業環境測定機関と相談したほうが良いです。

今後、どのように告示がでるか、注目です。

試験・研究業務の有機溶剤作業主任者

有機溶剤中毒予防規則では、定められている作業列挙(第1条第1項第6号)のうち、「ル 試験又は研究の業務」を除く作業は、有機溶剤作業主任者を選任しなければならない。

なぜ、試験又は研究の業務は有機溶剤作業主任者を選任しなくてよいのか?

解釈例規には、
・一般に取り扱う有機溶剤等の量が少ないこと
・有機溶剤についての知識を有する者によって取り扱われていること
と書かれています。(昭和53年8月31日 基発第479号)

研究職に就いている方はおそらく大学で化学を専攻していたと思います。
そのような方しかいないならば、条文通り有機溶剤作業主任者は不要です。
(注 以前知識を有する者は、院卒のことを指す。と聞いたことがあります。そこは監督官次第でしょうか)

しかし、試験・研究で用いた器具の洗浄などを、パートさんにお願いしている場合、その指揮のために、有機溶剤作業主任者の選任が必要です。

また、少し解釈が微妙ですが、
大学などの場合、学生が有機溶剤を取り扱う場合、有機溶剤作業主任者を選任しておいたほうが無難です。
無難というのは、学生は労働者ではないので適用されるか曖昧だからです。
ですが、もし万が一事故や中毒が発生した場合、教職員に責任が生じます。教育の一環として、有機溶剤作業主任者の技能講習を受講させ、作業主任者の職務を行わせることをお奨めします。

研究員がすべて化学専攻で、充分に知識を有しているとしても、有機溶剤作業主任者の職務を行う役を選任することをお奨めします。

その理由は、

有機溶剤作業主任者の職務

  1. 作業に従事する労働者が有機溶剤により汚染され、又はこれを吸引しないように、作業の方法を決定し、労働者に指揮すること。
  2. 局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置を1月を超えない期間ごとに点検すること。
  3. 保護具の使用状況を監視すること。
  4. タンクの内部において有機溶剤業務に労働者が従事するときは、第26条各号に定める措置が講じられていることを確認すること。
    (有機溶剤中毒予防規則第19条の2)

2.の局所排気装置等の点検を誰がやるかです。
専門の業者が毎月入るなら問題ないですが、そうでないならば、法的義務はありませんが、管理担当者をおくようにしましょう。

ユニット 作業主任者職務表示板 有機溶剤作業主任者の職務 500×400mm 356-21